京都生まれの故伊丹十三さんが、1965年に出した「ヨーロッパ退屈日記」は名エッセーと言われる。「大英帝国の説得力」という一文がある▼ロンドンの横断歩道。女性に連れられた大きな犬が渡るのを嫌がり、女性を出発点まで引き戻してしまう。<全く英国的だと思ったのは、その後の情景である>▼女性は道ばたにしゃがみ込み、犬を説得しにかかる。いつもと順路が違うだけだと分かったのか、犬はようやく30分後、先に立って渡り始める。EU離脱の迷走ぶりに、ふとこの話を思い出した▼メイ首相と横断歩道を渡るのを議会は嫌がっている。犬になぞらえては失礼だが、離脱案を拒否し続けている。世界が気をもむこの情景は英国的と言えるのか、それともかの国は変わってしまったのか▼映画出演のために欧州に長期滞在した伊丹さんのエッセーにはいろいろな見聞が出てくるが、英国の話が多い。文化でも経済でも、日本にとって西欧の玄関口だった。いまや混乱を恐れ、日本企業の撤退が相次ぐ▼<この本を読んでニヤッと笑ったら、あなたは本格派で、しかもちょっと変なヒトです>。山口瞳さんが表紙に寄せた文を見ると、まるで英国のことを言っているかのようだ。ちょっと変だけど、民主主義の本格派…その国はどこに向かうのか。