季節の移ろいを表す七十二候の一つ「桜始開(はじめてひらく)」を迎え、各地から桜だよりが届く。きのう京都市内でも開花が宣言された▼暖冬の今年は桜も早く咲くに違いないと思いきや、花芽が寒さに一定期間さらされる休眠打破が鈍く、平年より1日早いだけだった▼京都には円山公園や嵐山など花の名所は多いが、京のへそに位置する六角堂(中京区)のシダレザクラも趣がある。「御幸(みゆき)桜」と呼ばれ、咲き始めは白色に近く次第に紅色を深める。早咲きゆえに既に見頃だ。隣り合って新緑が映えるシダレヤナギと春を競う▼昨今、古都の情緒を求めて入洛する観光客が過剰に増え、興ざめな名所が目立つ。とりわけ桜の季節は一段とにぎやかになるが、六角堂は一歩踏み入れば外の騒がしさとは全く別世界▼桜は「花王」とも称賛され、長く日本人に愛されてきた。数多い桜の中で今や主流はソメイヨシノとはいえ、シダレザクラやヤマザクラといった伝統種こそ京都に似合う▼春暖は一進一退ながら満開はもうすぐ。<世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし>。古今和歌集にある在原業平(なりひら)の一首は、開花を待ち望みつつ散るのが気がかりで落ち着かぬ心情を詠む。やきもきさせられても確かに待ち遠しい。らんまんと咲き誇る花王を目に焼き付けたい。