父の邦夫さんと小学6年の吉岡美帆(邦夫さん提供)

父の邦夫さんと小学6年の吉岡美帆(邦夫さん提供)

 「私にとって海といえば、子どもの頃から丹後の海でした」。東京五輪セーリング女子470級で吉岡美帆(30)=ベネッセ、立命大出=が連日のレースに奮闘している。父の邦夫さん(65)=兵庫県川西市=の実家がある京都府京丹後市網野町の海で毎年のように遊んだ思い出が、競技を始めるきっかけになった。

 実家から砂浜までは歩いて数分。鮮やかな夕景から「夕日ケ浦」と呼ばれる海が広がっていた。「泳ぎは得意じゃなかったけど、海は昔から好き。波に触れるのが楽しかった」。家族と海水浴をして、海の幸を味わう。芦屋高で新しいスポーツに挑戦しようとヨット部を選んだ時、夏の思い出が後押しした。今の吉岡にとって海は戦いの舞台だが、「丹後に来たときはレースのことを忘れて、ただ癒やされている」。

 網野町の親戚もエールを送る。伯母の舩本典子さん(68)は「動物好きでおとなしい子。でも船に乗ると、人が変わるって言ってましたよ」と語る。以前夫婦で営んでいた飲食店には、リオデジャネイロ五輪の土産や新聞の切り抜きを飾っていた。夫の節夫さんが亡くなった際は、シーズンの忙しいさなかに吉岡も葬儀へ駆けつけた。舩本さんは「丹後が、いつでも帰って来られる場所になればいい」と優しく見守る。

 「子どもの頃はそんなにスポーツは得意じゃなかった。信じられない気持ち」と話すのは、父の邦夫さん。立命大卒業後、ベテランの吉田愛(40)=ベネッセ=とペアを組んで成長したと感じている。「プロ意識を持ち、1本芯が通ったと思う」。2人は29日の第4レースを終えて総合10位。8月4日のメダルレースを目指す戦いが続く。

 8月生まれの次女に、父は海に浮かぶ帆船をイメージして「美帆」と名付けた。成長した娘は帆を巧みに操り、金メダルの有力候補となった。「ヨットを始めたときは、名前は意識していなかった。でも今思えばすごくいい名前をつけてくれたな」。導かれるようにセーラーとなった吉岡が、決戦の舞台を迎えた。