与謝野町が配布した新型コロナウイルスの抗原検査キット

与謝野町が配布した新型コロナウイルスの抗原検査キット

与謝野町役場

与謝野町役場

 京都府与謝野町が帰省者を対象にした新型コロナウイルスの抗原検査キットの配布を取りやめた。キットは国が承認しておらず、配布に課題がないかを国や府に慎重に確認するか、診断の確定にならないことを町民へ事前に十分説明していれば、混乱は抑えられたはずだった。お盆までの対策を急いだ町の姿勢が要因である半面、感染症対策の権限や能力では限界がある町が、どこまで住民のニーズに応えて工夫できるのか、課題も浮き彫りにした。

■「帰省の時季までに」危機感から配布を決定

 「丹後での感染拡大をなんとか水際で防がなければいけないという危機感があった」。山添藤真町長は配布の目的をそう語る。都市部での急速な感染の広まりに、お盆や夏休みの帰省シーズンが重なり、帰省者によって町内で感染が広がることが予期された。

 同町では6月、町立小中学校や保育施設の職員用に検査キットを購入した。その際、舞鶴市の業者から「国承認のキットを購入するためには医療機関が検査を実施する前提が必要」と言われ、町立診療所が実施機関となり、保健師らが検査に立ち会うことを条件に購入した経緯があった。今回は対象者が遠方におり、医療関係者が検査に立ち会えないことから、医薬品である国承認キットの購入は不可能な状況だった。

 「研究用」として市販もされている未承認キットの使用は、2月に国から「感染を調べる目的で使うべきではない」と事務連絡が出ている。町長らは知っていた一方、他自治体でも帰省者を対象に未承認検査キットを配布する前例はあった。役場内で検討を急ぐ中、帰省前に検査をしてもらう体制を作らなければならないと、府には未承認キットを前提とした相談はせず、配布を決めた。

■最終判断は市町村 しかし医療行政は国や府が強く、市町村は不慣れ

 府は8月12日に町が未承認キットを配布していることを知り、13日に町防災安全課長を呼び出した。丹後保健所は、行政が配布することで住民が確定診断できると思ってしまう▽偽陽性や偽陰性で医療機関の圧迫につながりかねない▽未承認キットについて国の通知が出ている▽帰省の奨励と取られかねない―と指摘し、配布を控えるよう指導したが、「最終的な判断は自治体にある」と伝えた。

 町はキットに添えて手渡す注意書きに、確定診断ができるものではないと追記し、19日まで配布を継続したが、25日、山添町長は会見で「未承認の検査キットへの不安が町民の間に広がった」と中止を発表した。最終的に630個を配布した結果、27日までにキットを使った2人の陽性が分かっており、山添町長は「配布によりリスクを減らすことができた」と一定の意義を強調する。

 一方、経過を取材すると、事業検討に当たった町長らと、配布業務を任せられた防災安全課との情報共有が不十分で、同課職員は国からの事務連絡や規制する法律の内容を知らずに対応に当たった面がある。医療行政は国と府の権限が強い。町には不慣れな業務だっただけに、周到な準備と住民に説明を尽くす姿勢が必要だった。

■承認キット配る自治体も 高まる検査ニーズ、国・府が支援を

 与謝野町が制度上できないと断念した国承認の抗原検査キットの配布だが、国内では、住民に配布する例が出ている。厚生労働省は「陽性者が医療機関に行ってもらうことを目的としており可能」との見解を示す。

 医薬品医療機器法では、医薬品を「業」として販売するには許可が必要としているが、国や自治体が配布するのは「業」に当たらず、業者が自治体に売る制限もないとする。だが、同省は「自治体が配るときのガイドラインは特段ない」といい、事務連絡なども行っておらず、自治体に判断は委ねられているという。

 感染者が急増した神奈川県は7月、県民への承認済み検査キットの無償配布を始めた。県医療危機対策本部室は「対価をもらっておらず『業』ではない」と厚労省と同じ認識を示す。

 一方、長野県飯田市は6月に承認済みキットを市民に配布し始めたものの、8月からは費用が安く法律に縛られない未承認を「社会実験」として配ることにした。市危機管理室は「医療機関ではないので市は購入できず、前回は市立病院を通じて購入した」と説明し、承認済みキットを市として買える制度については「(必要と)思います」とする。

 京都府薬務課は「医薬品は薬局や医療機関から交付を受け、専門家の助言で使うのが大事。無秩序に配る物ではない」という。その上で、「目的や配り方、専門家の関わり方により事例ごとに国に照会することになるのではないか」との見方を示す。

 府北部でも感染が広がり、簡易に検査をしたいとの住民の要望は強まっている。検査キットの配布はニーズに応えようとする意義もあり、国や府に求められるのは受け身の助言ではなく、小さな自治体への積極的な支援ではないか。