映画「解放区」の太田信吾監督(右)と酒井隆史・大阪府立大教授(10月17日、京都市南区)

映画「解放区」の太田信吾監督(右)と酒井隆史・大阪府立大教授(10月17日、京都市南区)

 大阪市の助成金で制作されたものの、完成後に市が内容修正を要求、監督が拒否したため上映が封印されてきた映画「解放区」(太田信吾監督)の上映が2日、京都市上京区の映画館「出町座」で始まった。 太田監督は「文化芸術に行政が文化芸術に助成金を出すという行為が、日本では行政のプロパガンダとしてしか扱われていない。作品から地名を消すということは、そこで暮らす人の存在を消すことでもある。表現者が名前を出すのはリスクも義務も、その表現の甘さも、表現者が責任を負うということ」と話している。

 映画「解放区」は大阪市西成区・釜ケ崎を舞台に、ドキュメンタリーを撮影する人たちと描いた映画。ドヤ街や日雇い労働者などドキュメンタリーとフィクションが交錯しながら物語は進む。ドキュメンタリー撮影のはらむ暴力性も映し出す。

 同映画について太田監督と「暴力の哲学」「通天閣」などの著書がある酒井隆史・大阪府立大教授のトークと上映が先月、京都国際映画祭の一環で京都市内の映画館であり、太田監督は「全てを修正したら、作品の意味がなくなってしまう」となどと語った。

 太田監督は大阪市の「大阪アジアン映画祭」に向けた助成金を得て2013年から撮影を始めた。しかし完成後に大阪市側から映画祭の運営団体を経由して、▽西成だと特定できる表現▽「どん底」という言葉▽ドラッグの描写▽統合失調症-など、10カ所について削除を要請された。監督は修正に応じず、補助金を返還した。
 「表現の自由」と行政のカネの関係は、企画展「表現の不自由展・その後」を開催した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」に対して文化庁が補助金交付を内定後に不交付を決めたことでも問題になった。

 酒井教授は「西成区や釜ケ﨑の表象としてはこの映画を批判的にもいえるが、映画として衝撃的で、すごい才能だ。釜ケ﨑を知ると日本にこんな場所があるのか、と驚く。だがかつては特別ではなく、日本の都市のあちこちにこうした場があった。都市は矛盾が集中する場だが、今は治安や秩序が語られる」と、変容する都市像を説明。「誰にとっての治安、富裕層にとっての治安ではないのか。都市には最初から秩序があって、当てはまらない人々を排除するというのは逆立ちした都市イメージ。都市とはなんだったのか。釜ケ﨑を撮影した映画はほとんどなく、かつては撮れる雰囲気もなかった。(カメラが)入れるということは両義的で、結界が解けてきた面もある」と述べた。
 太田監督は「公開まで5年かかったが、撮影した釜ケ崎の景色が、再開発や(労働者と求人側が集まる寄せ場でもあった)『あいりん総合センター』閉鎖、労働者の高齢化で、もうない。最後の灯を撮影したという意味で映画の記録性は高まった。西成の現実を伝えたい」と語った。