のびやかな筆の運びに、隣国の人たちは何を思うだろう。ソウルの国立中央博物館で、朝鮮王朝時代の禅僧四溟(しめい)大師惟政の遺墨展が開かれている。京都市上京区の興聖寺が無償で貸し出した▼日本では松雲大師と呼ばれる。豊臣秀吉の「文禄・慶長の役」に際し、僧侶軍の将として戦い、後に和平交渉を担った人物として韓国では広く知られている▼日本に連行された民間人の返還を求め1604~5年にかけて京の寺に滞在した。徳川家康と交渉し、千数百人を帰還させた。興聖寺は大師と交流した虚応円耳(きおうえんに)が開いたという縁がある▼大師の書は度重なる戦火で焼け、韓国にはほとんど残っていない。貸し出しの求めに望月宏済住職は「二つの国をつなぐ大きな力になる」と快諾した。元徴用工問題に端を発し、日韓関係は冷え切っている。「こんな時こそ文化の出番」と▼京都滞在中の大師は、漢詩や書で日本側の信頼と尊敬を集めた。児童文学者の石井桃子さんは「どうしたら平和の方へ向かってゆけるだろうと、人間がしている、いのちがけの仕事が『文化』なのだと思う」と書いている▼きょうは文化の日。京都の文化財が平和のための務めを果たしていると思うと誇らしい。博物館によると、10月中旬に始まった遺墨展には2万4千人超が訪れている。