ネット上の誹謗中傷に対して罰則強化を法制審に諮問すると説明する上川法相(14日午前、法務省)

ネット上の誹謗中傷に対して罰則強化を法制審に諮問すると説明する上川法相(14日午前、法務省)

 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策として、上川陽子法相は14日の記者会見で、刑法の「侮辱罪」を厳罰化して懲役刑を導入するため、16日に法相の諮問機関である法制審議会に諮問すると表明した。罰則強化による抑止効果に期待する半面、書き込んだ人物の特定が難しいことや、言論の自由を脅かすといった懸念については明確な回答を避けた。

 会見冒頭で法制審への諮問を明らかにした上川氏は「公然と人を侮辱する侮辱罪は厳正に対処すべき犯罪だと示し、抑止することが必要。法定刑を名誉毀損(きそん)罪に準じたものに引き上げたい」と強調した。

 一方、厳罰化しても投稿者の特定が難しいという課題が指摘されている。今年4月には特定を容易にするための改正プロバイダー責任制限法が成立、政府は来年秋までの施行を目指しており、上川氏は「円滑な施行に向けて関係省庁と協力を進めたい」と説明した。厳罰化で言論の自由が脅かされるとの懸念には「専門的な見地から法制審で審議をしてほしい」と述べるにとどめた。

 侮辱罪の現行法定刑は「30日未満の拘留か1万円未満の科料」だが、法制審では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加する案を審議する。重罰化されれば、公訴時効も現行の1年から3年となる。

 プロレスラー木村花さんの死をきっかけに、会員制交流サイト(SNS)などインターネット上の誹謗中傷が大きな社会問題となった。明治時代に制定された刑法の侮辱罪は、具体的事例を示さずに人をおとしめる行為も対象とし、名誉毀損罪よりも対象が広い。

 ネット上の中傷は、匿名で大量の批判や中傷が殺到し、言葉の暴力が雨となって個人を追い詰める事態だ。一つの投稿では一見、違法と言い切れなくても、継続して大量に書き込まれれば、暴力になる。明治時代には想定されなかったテクノロジーの変化に対応するには、厳罰化という刑事政策だけでは対応しきれない。

 総務省は省令を改正し、中傷を匿名で投稿した人物を早く特定できるよう、情報開示対象に投稿者の電話番号を追加した。今春、改正プロバイダー責任制限法が成立し、中傷された被害者が、発信者の氏名や住所、ログイン記録を特定しやすくなった。大手ネット事業者側でも、不適切投稿を人工知能(AI)などで検知し削除する取り組みがある。追跡性を向上した民事手続きによる救済、事業者側の自主的な削除等の取り組みは重要だ。

 それでも、ネット上の誹謗中傷という「数の暴力」に立ち向かうには、被害者側の負担が余りに大きい。京都でも事故遺族や、在日コリアンの人たちにネット上で中傷を浴びせる匿名投稿が相次ぐなど、人権侵害が繰り返されてきた。

 総務省がネットでの人権侵害に対応するため設置した「違法・有害情報相談センター」に寄せられた相談は2019年度で5198件。法務省の人権擁護機関がプロバイダーなど事業者に人権救済で削除要請した件数は578件。透明性が高く、明確な削除ルールを社会で共有する必要がある。