今年、京都府伊根町沖の定置網に入ったエチゼンクラゲ(8月25日、伊根浦漁業提供)

今年、京都府伊根町沖の定置網に入ったエチゼンクラゲ(8月25日、伊根浦漁業提供)

大量発生して大きな漁業被害をもたらしたエチゼンクラゲ(2009年10月、福井県越前町沖)

大量発生して大きな漁業被害をもたらしたエチゼンクラゲ(2009年10月、福井県越前町沖)

 2000年代に深刻な漁業被害を与えたエチゼンクラゲが若狭湾周辺(京都府、福井県)で09年以来の発生量となり、京都府沿岸でも定置網から除去するため操業時間が延びるなど影響が出ている。現在は小康状態だが湾内にとどまっている個体もあるとみられ、関係機関が漁業者に引き続き警戒するよう呼び掛けている。

■直径2メートル、150キロになるものも

 「8月後半に急激に増えた。こんなに来るとは…」。一日最大250個体のクラゲが定置網に入った湊漁業(京都府京丹後市久美浜町)は困惑する。クラゲを網から除去するため、操業時間は一網当たり1・5倍になったという。「100個体も入ると定置網の一部を沈めて外に出す。一緒に逃げる魚をたもですくわないといけない」と苦労を漏らす。

 エチゼンクラゲは傘の直径2メートル、重さ150キロに達するものもある。水産庁所管の水産研究・教育機構によると、日本海に流れ込むエチゼンクラゲは中国沿岸の長江河口付近で生まれた後、対馬海峡を通過して、海流に乗り北上する。

■12年前には1億円近い被害が

 府内漁業関係者の話では、魚介類の市場への搬入が遅くなれば売値が下がり、翌日に回ると半値程度になることもあるという。府海洋センターによると、09年は漁具の破損や漁獲量の低下、品質低下による価格下落などで9500万円(推定)の被害が出た。

 水産研究・教育機構によると、今年生まれた量は昨年の半分以下とみられ「予想ではエチゼンクラゲは去年よりも少なかった」という。しかし、漁業情報サービスセンター(東京)によると、8月までに長崎県や島根県で1千個体を超えて入網。09年には及ばないものの、鳥取県以東ではここ10年余りで最も多い量になった。府内では8月12日、福井県でも16日に初めて見つかり、同県おおい町では800個体が入った。

■中国や韓国とも情報共有、影響は長引く可能性も

 00年代のクラゲ大量発生以降、国は中国、韓国との情報共有などを進めてきた。しかし今年は、新型コロナウイルスの感染拡大により、例年行う対馬海峡や東シナ海、黄海を横断する国際フェリーからの目視調査が行えず、対馬海峡の南半分に当たる博多と対馬を結ぶ国内航路に限られた。水産研究・教育機構の担当者は「日本海に入るクラゲはかなりが(日韓国境のある)対馬海峡の北側を通る。国際フェリー調査があれば精度は上がっていた」と唇をかむ。

 水産庁によると、出現状況を踏まえ府や福井県など日本海側7府県で9月から駆除作業が進み始めたという。同機構はエチゼンクラゲは海流に乗って北上しているとする一方、「若狭湾は湾内を回る海流がある。入り込んだエチゼンクラゲの影響は長引く可能性がある」と注意を呼び掛けている。

■記者の視点、国が率先して対策を

 2009年の大量出現以降、エチゼンクラゲの抜本的な対策は進んでいたのか。府定置漁業協会で会長を務める、伊根浦漁業(京都府伊根町)の倉幹夫社長は「今年こんなに多いとは思わなかった。『喉元過ぎれば熱さを忘れる』になっている」とこぼす。現場の感覚が国に届いていないのではないか。

 水産庁の担当者は現在の対策は一定の効果はあるとしながら、「漁獲対象外のものに大きく予算を充てるのはなかなか難しい」と事情を話す。

 「いつかは来るが、いつ来るか分からない」ために対策が進展しない構図は、災害対策と似ている。全国で広がる新型コロナウイルスへの対策が国単位であるように、日本海の問題に対しても事業者では対症療法が限界だ。未確定なリスクに対して率先して備える姿勢こそ、国に求められるのではないか。​