受賞の言葉よりも、受賞辞退の言葉に引かれるのはなぜだろう。政府から国民栄誉賞受賞を打診されたイチローさんは「人生の幕を下ろした時に頂けるよう励みます」と答えた▼大リーグ1年目で首位打者などのタイトルを獲得した2001年とシーズン最多安打の新記録を樹立した04年にも打診されている。その時は現役を理由に辞退したが、引退後の今回も首を縦に振らなかった▼政府には「令和第1号」になれば、選挙前にアピールできるとの思惑もあったようだが、当てが外れた格好だ。近年は「政治利用」や「人気取り」だと指摘する声も少なくない▼「そんなんもろたら立ちションベンもできんようになる」。そう言って辞退したのは、「世界の盗塁王」福本豊さんだ。実際は初受賞者の王貞治さんのように記録だけでなく、広く国民に愛される人物になれる自信がなかったからだと後に語っている▼女優の故杉村春子さんは文化勲章受章を辞退した時、「勲章を背負って舞台に上がりたくない。私は芝居をしていたいだけ」と話した。「戦争中に亡くなった俳優を差し置いてもらうことはできない」とも▼辞退の言葉には人間性がにじむ。イチローさんにとって「人生の幕」とは何をさすのだろう。まだ45歳。簡単に下りそうにないのは確かである。