新リーダーの指導力に早くも不安を抱かせる船出だ。

 自民党の岸田文雄総裁が、菅義偉首相の後を継ぐ新政権の発足に向けた動きを本格化させた。

 新たな党執行部人事では、党運営の要の幹事長に甘利明税制調査会長を充てたのをはじめ、総裁選で岸田氏勝利に動いた重鎮や大派閥への配慮が色濃い陣容となった。

 岸田氏は就任時、「生まれ変わった自民党を国民に示す」と党改革を宣言したが、ふたを開けてみれば旧態依然とした派閥優先の人事に見える。週明けの岸田内閣の立ち上げでも党内力学に重きを置くのでは、政治刷新への国民の期待は離れていくことになろう。

 透けてみえるのは、岸田総裁誕生を後押しした安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相の隠然たる影響力だ。

 2人に近い甘利氏の幹事長起用が総裁選の論功行賞なのは明らかだろう。所属する麻生派内のベテランをまとめて岸田氏を支持し、2人との連絡役も務めた恩に報いた。

 新執行部に身内の岸田派議員は入らず、安倍氏の出身派閥で最大勢力の細田派が総務会長と国対委員長を占めた。当選3回で総務会長に福田達夫氏を抜擢したのは、岸田氏が訴えた若手登用の体裁を整える狙いがうかがえよう。

 政調会長にも、無派閥ながら総裁選で安倍氏が推した高市早苗氏を充てた。論戦で主張の開きが大きかった高市氏を党政策の責任者に据え、岸田氏の掲げる分配重視などの政策転換をできるのか、疑問を抱かざるを得ない。

 岸田氏は「人の話をよく聞くのが特技」と繰り返し、トップダウン型の安倍・菅政権下で「政治に国民の声が届かない。民主主義の危機」とまで訴えてきた。

 だが、その「聞く力」が自らの党内基盤を守るため内向きに発揮されるのでは、国民の声とのずれは開くばかりだ。

 新内閣の要となる官房長官にも細田派で安倍氏側近の松野博一元文部科学相を起用する方針という。国民の負託に応える政策本意の組閣ができるかが問われよう。

 政府・与党は4日召集の臨時国会を14日までとし、新首相の指名と所信表明演説、各党代表質問のみとする方向だ。今後の感染「第6波」が懸念される中、コロナ対策の実質審議を行わないのでは政治の責任が果たせない。

 岸田氏は野党との論戦から逃げることなく、衆院選で国民の信を問うべきだ。