信号機のない横断歩道。耳を澄まし、盲導犬の導きで安全確認して渡る(亀岡市追分町・JR亀岡駅前)

信号機のない横断歩道。耳を澄まし、盲導犬の導きで安全確認して渡る(亀岡市追分町・JR亀岡駅前)

訓練犬が暮らす飼育舎。木のぬくもりのある家庭的な雰囲気になるよう工夫している(亀岡市曽我部町・関西盲導犬協会)

訓練犬が暮らす飼育舎。木のぬくもりのある家庭的な雰囲気になるよう工夫している(亀岡市曽我部町・関西盲導犬協会)

 映画「クイール」で有名になった盲導犬の育成拠点が、亀岡市曽我部町にある関西盲導犬協会の盲導犬総合訓練センターだ。視覚障害者の暮らしを助ける盲導犬を年10頭余り育て、大切なパートナーとして送り出している。訓練の現場を取材し、まちで連れ添い歩く体験をさせてもらった。

■アイマスク着用で記者も体験

 訓練士で広報担当の岡本祐己さん(38)の協力を得て、PR犬として活動する「バーネン」が体験のパートナーになってくれた。

 基本的な動き方や合図を教わった後、アイマスクを付け、協会近くの農道で歩行練習する。犬の胴に付けたハーネスを左手で持つ。全く見えない世界では、一歩踏み出すのも怖い。「力を抜いて、犬を信じて身を委ねて」と岡本さんからアドバイス。慣れてくると、周囲の音や足の感触に意識が向いてきた。川の流れが右から左に。「橋を渡った?」「正解。歩行を任せると他の感覚から情報を得られます」

 人通りのある交差点や階段に挑戦するため、JR亀岡駅前に移動した。信号機のない横断歩道前でバーネンが止まる。「耳を澄まして車が来ないか確認して」。こわごわながら、耳に入る音とバーネンの動きに神経を集中させて歩みを進める。盲導犬は迫る車を察知し、危険な時は動かないという。

 歩行のリズムが急に止まった。駅構内に続く階段前だ。障害物や段差の前でも一時停止する。バーネンが先に1段目に足をかける。ハーネスの角度で、段差の大きさをつかむ。神経を研ぎ澄ませて上ると、踊り場に点字ブロックがあるのに気付く。

 いろんなサイン音も耳に入ってきた。エスカレーターや改札の音だ。香ばしいにおいに、コンビニ前を歩いていると気付く。全感覚で情報を得る大切さが分かってきた。

 エレベーターに乗るため壁を手で伝ってスイッチを探したり、下り階段では踏み外しそうになったりと、息を合わせての共同作業は想像以上に難しい。歩き回っていると方向感覚が失われ、現在地が分からなくなる。「慣れた人でも道に迷うことは多い。むやみに動かず人に尋ねて」と岡本さん。

 路線バスにも乗った。手すりを頼りに進み、座席を探る。他の乗客の邪魔にならないよう、バーネンを脚の下に座らせる。体が大きいため混んだバスや電車は乗りにくいだろう。バーネンの体の温かさに心が安らぎ「ありがとう」となでた。

 約2時間の体験だったが、視覚障害のある人が大変な努力で外出していることを、少しとはいえ実感できた。盲導犬は、外出時の導きだけでなく、存在自体が心の支えであることも。これからは、盲導犬や白杖(はくじょう)を持つ人の姿を見かけたら、積極的に声をかけようと思う。

■盲導犬育成は2年必要、年間10~12頭貸与

 関西盲導犬協会によると、盲導犬になるには約2年の訓練期間を要する。生後10カ月はパピーウォーカー(子飼育ボランティア)に預けられ、人への信頼を養う。その上で適性を見込まれた犬が、総合訓練センターで約1年間にわたる本格的な訓練を積む。

 最初の1カ月間、犬の性格を見極めた後、交通量の少ない住宅街で歩行訓練に入る。JR亀岡駅周辺のほか京都市内にも出向き、段差や交差点での誘導法や公共交通機関の乗り方など、さまざまな状況に対応できる動きや判断力を学ぶ。

 訓練で最も大切にしているのが「ほめて育てること」。岡本さんは「仕事を楽しみ、やりがいを持ってもらうため」と話す。

 それでもユーザーの安全にかかわる役割は重く、年間30頭ほど訓練する犬のうち盲導犬として貸与されるのは10~12頭という。

 現在、国内で盲導犬として働いているのは約970頭。視覚障害者のうちユーザーはごく一部だ。同協会への新規希望者は2年待ちの状況だが、訓練態勢や資金面から頭数を増やせないのが現状という。運営費の9割を寄付に頼っており、協会は「多くの方に支援いただきたい」としている。