「その香りは本当に良い香りでしょうか」と問い掛ける京都府南丹市の40代女性(同市内)

「その香りは本当に良い香りでしょうか」と問い掛ける京都府南丹市の40代女性(同市内)

香りの問題を啓発するポスター(南丹市八木町・八木西小)

香りの問題を啓発するポスター(南丹市八木町・八木西小)

 化学物質過敏症(CS)-。柔軟剤や香水、たばこなどに含まれる化学物質が引き金となって、激しい頭痛や重い倦怠(けんたい)感などに襲われる疾患だ。京都府丹波地域で暮らす女性は、香りから身を守るため、買い物を短時間にして人混みも避けるなど、制約の中で日々を過ごす。女性は「香りで苦しむ人がいる。自分の香りを見直してもらえたら」と訴える。

 「普通の線香は受け付けないので、葬式では、火が付いているように見える電子式を使った」。十数年前に症状を自覚した南丹市の40代女性は語る。

 CSは、体内にたまった化学物質が許容量を超えると発症。超過後は、微量の化学物質にさらされても症状が出るとされる。女性の場合、柔軟剤や肥料などさまざまな製品に反応し、がんがんする頭痛や吐き気、集中力の低下といった症状が長時間続く。

 10年ほど前から二重のマスクで外出。スーパーでは買う物をあらかじめ決め、短時間で済ます。香りが強いホームセンターや百貨店は避ける。身の回りの品は無香料で統一。治療法や特効薬はなく、「香りから逃げるしかない。普通の生活はできない」と漏らす。

 理解がある知人に会う時は「無香料の化粧で来て」と頼めるが、誰もが苦境を分かってくれるとは限らない。「気にしすぎ」という言葉も浴びたため、「新しい人間関係は築きたくない」とうつむく。仕事にも就きづらい。日本消費者連盟(東京都)などでつくる「香害(こうがい)をなくす連絡会」が、構成団体の会員らを対象に2019~20年に実施した調査では、香りで具合が悪くなったとした約7千人のうち2割が、仕事を休んだり職を失ったりしたなどと答えた。

 全国で数百万人が苦しんでいるとみられる一方、メーカーは香りが持続する商品を投入。CMも花盛りだ。自身と娘に症状がある南丹市の50代女性は「多くが香りを漂わせている現状では声を上げづらい」と嘆く。

 ただ、問題を認識する人は少しずつ増えている。シャボン玉石けん(福岡県)による21年の調査で、香りがもたらす害を指す香害という言葉を知っている人は前年比15ポイント増の71%になった。

 啓発も進む。南丹市の小中学校は今秋から、「その香り 困っている人がいるかも?」と投げ掛ける国のポスターを張っている。市教育委員会の木村義二教育長は「香りで困る人がいると知り、相手の立場で考えるきっかけにできるとよい」と話す。

 同連盟もA5判、66ページの「香害のないくらし 柔軟剤にさようなら」(700円)を3千部作成。メール(office.j@nishoren.org)などで注文を受けている。同連盟の杉浦陽子さんは「CSは誰もがなり得る。(国民病の)花粉症のようになる恐れもある」と警鐘を鳴らす。

 周囲が配慮を積み重ねれば、当事者の苦痛は和らぐ。前出の40代女性は「例えば、無香料の日用品を一カ所にまとめ、香りの強い場所と離してもらうだけでもいい」と願う。問題を発信する地元団体の発足や、行政などの窓口担当は香料使用を控えるといった動きの広がりも期待する。

 女性は、香り付きの商品に関わる人の仕事を奪うのは本意でないとしつつ、利用者らに問い掛ける。「その香りは、本当に良い香りでしょうか」