岸田文雄首相が国会で初の所信表明演説を行った。

 人の話をよく聞くことを長所と自認するだけに、「丁寧な説明を大切にする」と繰り返し、「車座対話」を行うなどコミュニケーション重視の姿勢を見せた。

 説明不足を批判された菅義偉前首相との違いを際立たせたといえる。

 ただ、岸田氏が力説した「新しい資本主義の実現」は、具体策に乏しい印象が残った。

 中間層を守り、「成長と分配の好循環」を目指すため、あらゆる政策を総動員すると訴え、科学技術分野の人材育成、賃上げする企業への税制支援、教育費や住居費支援などを挙げた。

 しかし、それらがどう分配に結び付き、好循環を生みだすのかは語られなかった。

 「新しい資本主義実現会議」を創設して議論するとしたが、スケジュールは明示しなかった。

 介護や保育などの現場で働く人の収入を増やすことにも触れたが、委員会を設置するとしただけだ。実現への道筋は見えない。

 岸田氏は、近年の自民党が依拠してきた「新自由主義的な政策」の転換を主張している。アベノミクスで貧富の格差が広がったとの批判に配慮したとみられる。

 だが、「成長と分配の好循環」は安倍晋三政権も打ち出していた。安倍氏の路線と岸田氏の経済政策はどう異なるのか。もっと説明が必要だ。

 分配政策を担保する財源についての言及はほとんどなかった。

 「経済あっての財政」と、財政再建より経済立て直しを優先させる考えを強調した。

 原案にあった「所得税や相続税の累進構造を高める」と税制改正に踏み込むくだりは消えた。

 「新しい資本主義」は岸田氏の看板と言えるが、裏付けの乏しさが浮き彫りになった形だ。

 新型コロナウイルスへの対応では、司令塔機能の強化や、人流抑制、医療資源確保のための法改正を目指すとした。

 菅前政権のコロナ対応については「何が危機管理のボトルネックだったのか検証する」と述べた。

 国民は政府の対策に不信感を抱いてきた。検証と反省なしに信頼回復はあり得ない。

 演説は総じて曖昧な部分が多かったように思えた。衆院選を控え、国民に負担を感じさせる主張を避けたとも受け取れる。

 来週は代表質問がある。質問に誠実に答え、有権者が選択できるような論戦を望みたい。