街を歩いていると、かつてよりカメラが多く設置されているように感じる。

 自分も写され、どこかで、誰かに見られているのだろうか。

 先月、JR東日本が首都圏の一部駅に設置した顔認証付きカメラが問題になった。

 自社が被害に遭った重大犯罪で服役した出所者や指名手配者を検知しようとしていた。逮捕時の報道写真などから顔の特徴をデータベースに登録し、カメラに写った人物と照合する。

 刑期を終えた人の行動を監視するのは、本人の更生を妨げ、人権上認められるものではない。報道で明るみに出て、JR東は出所者の検知方針を撤回したが、情勢の変化で再度検討する可能性はあるという。

 顔認証は技術活用を巡る社会のルール作りが進まない中で、いつの間にか広まっている。疑問を抱かないうちに、監視社会になっていかないか心配だ。

 特にコロナ禍や東京五輪・パラリンピックを通じて顔認証の利用が加速している。成田空港での搭乗ゲート、競技場への選手らの入場口で使われ、ホテルのチェックインや鉄道の改札、コンビニでの買い物などでも実証実験が始まっている。

 「顔パス」は便利だが、顔認証のために登録した画像は使用後はどう処理されるのか。成田空港では24時間以内に消去するという。登録ごとに処理について明示する必要があろう。

 顔認証の利用には不透明な領域がある。一つが警察の捜査である。街に設置されたカメラの映像を入手し、逮捕歴などのある人物の顔写真のデータベースと照合する手法は、もはや珍しくない。

 全国の警察で運用される「顔認証システム」だ。インターネットに投稿された顔画像とも照合しているようだ。指紋と同じように、国家公安委員会規則で顔写真の管理、運用方法が規定され、事件と無関係の顔画像は残していないとする。

 しかし、裁判所の令状もなく、捜査側の意向で不特定多数が写る顔画像を入手するのは適切と言えるのか。捜査対象者の車にGPS(衛星利用測位システム)の端末を付けた捜査について、最高裁大法廷は裁判所の令状がないのは違法、プライバシー侵害と指摘している。

 顔画像についても、個人情報の入手方法や扱いが妥当か、外部の検証が求められよう。

 米国では、トランプ前大統領支持者による連邦議事堂襲撃を巡り、警察が顔認証ソフトを容疑者特定に活用していることが発覚し、人権団体から厳しく批判されている。

 欧州連合(EU)は5月、人工知能(AI)活用規制案を発表し、公の場での顔認証システムの規制、捜査当局によるリアルタイム利用の原則禁止を盛り込んだ。

 人権や民主主義、安全への配慮を強める狙いだ。世界標準作りをめざしており、施行まで数年かかるようだ。

 日本では「防犯カメラ」と呼ばれるが、使い方によっては「監視カメラ」になる。顔認証を信頼して利用するには、透明性のあるルールが欠かせない。遅れていた議論を急ぎたい。