「ユーモアにあふれた物語に触れてほしい」と話す横川さん(左)とひこさん(京都市左京区)

「ユーモアにあふれた物語に触れてほしい」と話す横川さん(左)とひこさん(京都市左京区)

さらわれたオレオマーガリン王子

さらわれたオレオマーガリン王子

 アメリカを代表する作家マーク・トウェイン(1835~1910年)が残した未完の物語を、現代のアメリカ人作家と画家が新しい物語として作り上げた。その名も「さらわれたオレオマーガリン王子」。翻訳を手がけた児童文学作家のひこ・田中さん(66)と児童文学研究者の横川寿美子さん(66)=いずれも京都市左京区=に物語の魅力を聞いた。

 物語のもとになったのは1879年の出来事だ。「トウェインがパリのホテルに滞在中、子どもたちにせがまれて作った物語です」とひこさん。幼い娘たちが雑誌をぱらぱらとめくってお話のきっかけになる絵を探し、それをもとに父が創作する-。これが夜ごと繰り返され、いくつか生まれた物語のうち、大人気となったこの物語をトウェインはノートに書きとめた。

 光が当たったのは2011年。横川さんは「トウェインのクックブックを作ろうと思ったある博士が、ノートにオレオマーガリンという言葉を見つけたのがきっかけでした」と話す。北米ではかつて、マーガリンをオレオマーガリンと呼んでいたという。「博士は未完の物語と気づきます。でも書かれていたのはあらすじではなく、物語の断片。16ページの短いものでした」

 この断片をもとに、全く新しい作品を創作する権利をアメリカの出版社が14年に獲得。物語の紡ぎ手は、「エイモスさんがかぜをひくと」(コルデコット賞)で知られる作家フィリップ・ステッドと、画家エリン・ステッド夫妻に託された。2人は、貧しい少年ジョニーが、年老いた女性にもらった種を食べたことで、動物と話せるようになり、行方不明になったオレオマーガリン王子を探しにいく―という物語を生み、17年に発表した。

 物語の序盤と後半はフィリップの創作だが、トウェインが残したメモの内容はほぼ反映され、物語の核にもなっているという。ひこさんは「書き換えたくはなかったんじゃないかな。フィリップがイメージするトウェイン像とともに、トウェインが娘に抱いた愛情を想像しながら書いたと思う」と考える。

 物語は独特の構成だ。現実と非現実が交差するマジックリアリズムの世界が漂い、物語の合間には、トウェインとフィリップが物語論などについて語りあうメタフィクションの形式も盛り込まれている。また、王妃より40センチ背が低い王様は、自分よりも大きい人を「おぞましい巨人」「国家の厄災」として排除するなど、現代アメリカを風刺する側面も持っている。

 「単なる絵本ではない」とひこさんと横川さん。「子どもの物語でありそうな展開は外して、リアリティーや物語論を考える要素もあるなど、多彩な面白さを持つのが特徴。エリンの絵とともに楽しんでほしい」

 福音館書店刊、2916円。