筋ジス病棟での人権抑圧について報告する大藪さん(左から3人目)ら難病患者=15日午後2時28分、京都市南区・京都テルサ

筋ジス病棟での人権抑圧について報告する大藪さん(左から3人目)ら難病患者=15日午後2時28分、京都市南区・京都テルサ

 全身の筋肉が徐々に動かせなくなる難病、筋ジストロフィー(筋ジス)患者が入院する「筋ジス病棟」の実態調査を、京都市の障害者団体などが初めて実施し、15日に報告書を公表した。病院スタッフから「虐待」を受けたことがあると回答した人は3割超に上り、中でもナースコールを長時間無視されたり、外部とつながるインターネットの利用を制限されたりするなど、患者が抑圧されている現状が浮き彫りになった。当事者らは「閉鎖的な環境や慢性的な人手不足が背景にある」と訴える。

 筋ジス病棟は全国に26病院あり約2千人が入院している。長期にわたり入院を余儀なくされる人が多く、限られた人間関係などから虐待や人権侵害の温床になっているとの指摘がある。

 調査したのは、当事者や障害者支援団体などでつくる「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」(事務局・京都市南区)。病棟の実態を把握し、地域生活への移行を後押しするのが狙い。これまでも国による調査はあったが、今回は自らも介助を必要とする当事者が直接聞き取った。

 2019年2月~20年9月に入院生活におけるケア状況など約50項目を尋ね、18病院58人(男性48人、女性10人)から回答を得た。その結果、命綱ともいえるナースコールの最長の待ち時間は2時間5人、1時間6人、最も多かったのが30分間9人で、「来なかったことがある」と答えたのは11人だった。過半数が「ナースコールを手の届かないところに置かれたことがある」とした。

 人とつながる手段であるネット利用について、必要なサポートを受けられず利用を制限されている人は4割に上った。一方で、女性患者ならではの困難さも判明。特に排せつや入浴などの介助を男性スタッフが担う「異性介助」には「入浴介助に初めて男性がきた時は泣いた」「恥ずかしいなんて、あなたがおかしいと職員に言われた」といった声が寄せられた。こうした性的なケースを含む「虐待」を経験した人は10人中6人だった。

 この日、京都市南区の京都テルサで記者会見した脊髄性筋萎縮症の大藪光俊さん(27)=京都府向日市=は「当たり前の権利が侵害され、抑圧されている現実が浮かんだ。病院のスタッフを責めるつもりはないが、人手不足などの構造上の問題が患者へのしわ寄せになっている」と指摘した。

 昨年6月に筋ジス病棟を退院し、北海道で独居生活する吉成亜実さん(28)は「地域の医療態勢が不十分だと退院したくてもできない。開かれた病棟にしなければ」と呼び掛けた。報告書は厚生労働省などに提出し、改善を求めていくという。

◇旧国立療養所で「筋ジス病棟」と呼ばれていた旧「進行性筋萎縮症対策要綱」を根拠とする「措置入院」時代からの筋ジストロフィー病床は2020年現在、26病院計約2392床。筋ジス病棟は障害者総合支援法に基づく「療養介護事業所」であり、医療の診療報酬上は「障害者施設等一般病棟」として運営されているが、障害サービスを受ける入所者でありつつ入院患者でもある二重性から、実態が把握しづらい。

 京都新聞は国立病院機構を通じ、同機構でも集計していなかった「筋ジス病棟の療養介護入所者」について、旧筋ジス病棟26病院で「療養介護」を利用している入所者について、16年度から3年分のデータを入手した。ただし旧筋ジス病棟は、児童福祉法に基づく「医療型障害児入所施設」を兼ねている場合もあり、18歳未満の筋ジス患者の数は今回の集計には反映されていない。

 入所10年以上の人は791人で、1日平均利用者数に占める割合は42%と、長期入所が顕著だった。契約・措置解除理由は「死亡」176人が最多で、全国で約2300床あるものの在宅移行した人は3年間でわずか43人、年十数人で推移している。死亡退所した人の多さと併せ、生涯を筋ジス病棟で送る人が多いことを裏付けている。
 筋ジス病棟入所中の重度訪問介護併用実績は増えつつあるものの、3年間実績ゼロの病院が10病院と、病院間の格差が目立つ。

 全日本国立医療労働組合によると、筋ジス病床約50床を有する国立病院機構のある病院では、医療法上での届け出は「障害者施設等入院7対1」を満たすが、筋ジス病棟の看護体制は夜勤・準夜勤帯では実質「患者14対看護1」の割合になっている。

 同組合は「全面的な介助が必要で、自らの意思表示が困難であることも多く、濃厚な医療的ケアを必要とする患者さんも増加しています。夜間は数十人の患者さんをわずか2名で看護にあたる病棟も多い」としている。