衆院選が、きょう公示される。

 菅義偉前首相の突然の退陣表明から自民党総裁選、岸田文雄内閣発足を経て、衆院が解散されたのは5日前。任期満了まで1週間のタイミングだった。

 発足後2週間余りで国民の審判を受ける岸田政権は、経済政策などを中心に独自色も示したが、どう実現していくかは未知数だ。

 岸田氏が決めた党役員や閣僚の顔ぶれからは、安倍晋三元首相らの強い影響がうかがえる。

 約8年9カ月に及んだ安倍・菅政権の流れを、岸田氏も受け継いでいるといえる。その意味で、両政権以来の政策や政治手法などをどう評価するか、今衆院選で問わなければならない。

「安倍・菅」の総括を

 安倍・菅政権では、森友学園問題に関し決裁済み公文書の改ざんが行われた。「桜を見る会」などを巡る疑惑も晴れていない。日本学術会議の会員任命拒否の理由も語られないままになっている。

 国会で追及されても正面から答えない不誠実さは、権力を握る側の傲慢(ごうまん)さを浮かび上がらせた。

 新型コロナウイルス感染が急拡大する中、国民に十分な説明をしないまま東京五輪開催を強行した姿勢も独善的に映った。

 参院広島選挙区を巡る買収事件やカジノを含む統合型リゾート施設(IR)汚職など、多額の金銭が絡む不祥事も明るみに出た。

 政権トップは岸田氏に代わったが、こうした前任者らの姿勢に対する国民の記憶は薄れていない。

 共同通信が先週末に行った衆院選に関する世論調査で、岸田政権に「安倍・菅路線からの転換」を求める声は7割近くに上った。

 安倍・菅政権の何を継承し、何を変革するのか。岸田氏は明確にする必要がある。有権者もそこをしっかり見ているはずだ。

 コロナ対策の緊急事態宣言などが今月、すべて解除され、感染は現在、下火になっている。

 しかし、3回目のワクチン接種の必要性が議論されるなど、引き続き警戒が求められる状況だ。

分配の裏付け明確に

 コロナ禍で生活に困窮する人は増えており、どう手を差し伸べるかは政治の喫緊の課題である。

 東京商工リサーチによると、2021年度上半期の企業倒産のうち、感染拡大を要因とするものは前年同期比で6割も増えた。非正規雇用など立場の弱い労働者が職を失う状況も見過ごせない。

 さまざまな支援策が打ち出されたが、困窮者に適切に届いているとは言い難い。

 影響を受けた人々への対応は長丁場となる。実情に見合った具体策を示せるかどうか、各党の政策立案力、実現力が試される。

 「コロナ後」を見据えた新しい社会の在り方も考えなくてはならない。特に、以前からの課題だった人口減少、少子高齢化対策への道筋をどう付けるかは重要だ。

 17年秋、当時の安倍首相は少子化などの「国難を突破する」として衆院を解散した。しかし、「国難」への有効策は打てていない。

 20年の出生数は過去最少の84万人となった。団塊の世代が後期高齢者となって社会保障費が増大する「2025年問題」も迫る。

 少子化の背景として経済格差の拡大・固定化が指摘されている。非正規雇用が増加し、生活が特に苦しい人の割合「相対的貧困率」も国際的に見て高い水準にある。

 長期的視点で格差を是正する経済・社会システムの再構築が必要だ。疲弊する地方の現実にも目を向けたい。

 与野党がこぞって分配政策や中間層の形成に軸足を置く公約を打ち出したのも、現在の状況を深刻に受けとめているからだろう。選挙戦を通じ、深い議論が必要だ。

 ただ、各党とも公約実現の裏打ちとなる財源確保の見通しは必ずしも定かではない。議員の任期は4年だが、その先の世代につけを残して責任ある未来はつくれないことは認識しておくべきだ。

 選択的夫婦別姓や性的少数者などへの理解では、各党に温度差もあるようだ。多様性を尊重できる社会への議論が望まれる。

世界での立脚点示せ

 危機的な気候変動や、新たな国際情勢への対応力も課題だ。

 「脱炭素」の重要性では一致していても、再生可能エネルギーを重視するか、原発維持を前提とするかで各党の立場は異なる。

 経済・軍事面で台頭する中国と米国が、本格的な競争に入っている。日米安保を基軸としながら貿易面で中国とも関わりの深い日本は難しい立ち位置にある。

 自由や民主主義などとは異なる政治体制の国々が増え、国際社会に対立と分断が生じている。

 こうした現状にどう向き合い、世界の中で役割を果たしていくのか。その方策も語ってほしい。

 国内外とも、大きな時代の曲がり角にある。これまでの政治の振る舞いを顧み、今後への新たな構想力を示すことが、今回の選挙に求められている。具体的で分かりやすい選択肢を各党に求めたい。

 社会の構成員である私たちも、明日の日本をどうつくるべきかを熟慮し、投票行動を通じて積極的な意思を示したい。