【資料写真】筋ジス病棟がある国立病院機構のある病院

【資料写真】筋ジス病棟がある国立病院機構のある病院

 「セーフティネット医療」という言葉がある。民間病院では担えない患者の受け皿となる医療は戦後長く、全国の国立病院約5万床が担ってきた。しかし政府の行政改革で独立行政法人化され、効率化と収益を求められるようになり、国立病院機構の職員約6万人も安倍政権で非公務員化された。新型コロナ下で露呈したように、日本では非常時に対応できる病床の余裕がない。

 旧国立療養所で「筋ジス病棟」と呼ばれていた旧「進行性筋萎縮症対策要綱」を根拠とする「措置入院」時代からの筋ジストロフィー病床は2020年現在、26病院計約2392床。筋ジス病棟は障害者総合支援法に基づく「療養介護事業所」であり、医療の診療報酬上は「障害者施設等一般病棟」として運営されているが、障害サービスを受ける入所者でありつつ入院患者でもある二重性から、実態が把握しづらい。

 京都新聞は国立病院機構を通じ、同機構でも集計していなかった「筋ジス病棟の療養介護入所者」について、旧筋ジス病棟26病院で「療養介護」を利用している入所者について、16年度から3年分のデータを入手した。ただし旧筋ジス病棟は、児童福祉法に基づく「医療型障害児入所施設」を兼ねている場合もあり、18歳未満の筋ジス患者の数は今回の集計には反映されていない。10代前半から筋ジス病棟に入院しており障害福祉上は児童福祉法の「医療型障害児入所施設」で契約している児童が、満18歳になり障害者総合支援法の療養介護サービスに新規契約したケースも、今回の国立病院機構の集計では「新規入所」として計上されている。例えば10歳で筋ジス病棟に入院し、現在26歳の患者は筋ジス病棟入院歴16年になるが、「療養介護」施設のみの入所歴でみれば8年であり、福祉と医療で統計上の扱いが異なる。この「二重の扱い」が、筋ジス病棟の存在と課題を見えにくくしている。

 入所10年以上の人は791人で、1日平均利用者数に占める割合は42%と、長期入所が顕著だった。契約・措置解除理由は「死亡」176人が最多で、全国で約2300床あるものの在宅移行した人は3年間でわずか43人、年十数人で推移している。死亡退所した人の多さと併せ、生涯を筋ジス病棟で送る人が多いことを裏付けている。

 筋ジス病棟入所中の重度訪問介護併用実績は増えつつあるものの、3年間実績ゼロの病院が10病院と、病院間の格差が目立つ。

 全日本国立医療労働組合によると、筋ジス病床約50床を有する国立病院機構のある病院では、医療法上での届け出は「障害者施設等入院7対1」を満たすが、筋ジス病棟の看護体制は夜勤・準夜勤帯では実質「患者14対看護1」の割合になっており、夜勤・準夜勤帯に各看護師が1時間の休憩をとるため、2時間は最大47人の患者を看護師1人で対応しているという。同病院では生活支援員(福祉職)の夜勤・準夜勤はなく日中のみで、かつ生活支援員に介護専門職の有資格者はいない。また人工呼吸器を利用する患者は10人いる。

 同組合は「全面的な介助が必要で、自らの意思表示が困難であることも多く、濃厚な医療的ケアを必要とする患者さんも増加しています。夜間は数十人の患者さんをわずか2名で看護にあたる病棟も多い」としており、看護職の増員を求めている。

◇ケアの質と人員 構造上の問題

   国立病院機構は2020年、新型コロナウイルス対策が筋ジス病棟を含む「療養介護」病棟に及ぼす影響について、厚生労働省の障害福祉サービス報酬改定の場で次のように述べている。 「面会や外出・外泊制限が行われており、制限は長期化する可能性が高い。第三者後見人や行政担当者など家族以外にも面会制限が適用されている。また障害者は感染時に重症化しやすく、厳重な院内感染対策が求められる。利用者や家族の心理的支援のため、オンライン面会が必要となる」とし、機器整備や対応にあたる人員配置を手厚くした場合の報酬を引き上げるを要請した。

 2017年3月に京都市は、国立病院機構・宇多野病院の筋ジス病棟における療養介護サービス事業で、看護師3人が入所者に対し心理的虐待をしたとして、指定療養介護事業者指定効力の一部停止(新規利用者の受入3カ月停止)の行政処分を行った。 2020年12月に国立病院機構・青森病院は、人工呼吸器が外れる接続トラブルで入院中の難病患者が心肺停止に陥り、高次脳機能障害の後遺症が残った事例を公表した。同病院の筋ジス病棟(80床)での医療事故なのか明らかではないが、アラームへの対応が再発防止策の柱となっている。また国立病院機構・米沢病院の看護職員6人が2018年度、障害のある入院患者2人に足をつねったり、おむつ交換を放置したりするなど虐待をしたとして、国立病院機構が厳重注意処分としている。ケアの質向上には、職員モラルや筋ジス病棟入所者の重症化にとどまらず、時間帯ごとのスタッフ配置体制も検証する必要がある。