新型コロナウイルス対策や経済回復を口実に、与野党共に減税や現金給付といった公約を競っている。「分配」が目立つ一方、財政再建への処方箋は見当たらない。

 新型コロナの流行で経済は痛手を負った。危機を克服し、国民の暮らしを支えるには、緊急的な財政出動はやむを得まい。ただ財政規律を顧みず、将来世代につけを回す政策に持続性はない。

 「財務次官、モノ申す」―。衆院選公示直前、月刊誌「文芸春秋」に載った財務省事務方トップの異例の寄稿が議論を呼んだ。

 経済を押し上げる有効性の議論や検証を欠いた野放図な「ばらまき合戦」を憂い、「人気取りのばらまきが続けばこの国は沈む」と批判した。与党幹部は「大変、失礼な言い方だ」と不快感をあらわにしたが、財政状況を直視すればもっともな懸念と言える。

 国債と借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」は、3月末時点で1216兆円と過去最大を5年連続で更新した。コロナ対策で国債を増発したため前年度末から約102兆円増えた。危機的な状況は誰の目にも明らかだ。

 財政悪化は国債の信用失墜を招き、本来なら長期金利の上昇という市場原理が働く。ところが日銀が「異次元緩和」で国債を大量購入しており、この機能が働かない。何らかの理由で金利が跳ね上がれば、借金頼みの国家財政は危機にひんしかねない。

 財政健全化の指標とされる基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度に黒字化する政府目標は、今や絵に描いた餅にすぎない。国際公約であり、先送りすれば日本に対する信認を揺るがすことになろう。

 財政規律と経済対策のバランスを取るのが、政治の役割ではないか。だが自民党は「経済再生なくして財政健全化なし」として、経済の立て直しを優先する。対して野党は「(分配の)財源は富裕層や超大企業に応分の税負担を求めることで賄う」(立憲民主党)「増税のみに頼らない財政再建をする」(日本維新の会)などと訴えるものの、総じて危機感は薄い。

 財政再建に特効薬はない。歳出を総点検し、削減策を探る必要がある。バランスを取るには目をそらしたい選択肢とはいえ、増税などの負担増も避けられまい。

 「政権選択の選挙」である。政権を担うというなら、不都合な現実にも向き合い、財政立て直しに向けた道筋を示す責任がある。