その名は、「私たちの貴婦人」という意味を持つ。ナポレオンが皇帝戴冠式を行い、ユゴーの小説でも知られている。

 フランスの首都パリ中心部にある世界遺産ノートルダム寺院(大聖堂)のことだ。

 火災で尖塔(せんとう)が燃え上がり、崩れ落ちる様子は、国民らに計り知れない衝撃を与えた。

 「心のよりどころ」を失い、うちひしがれる人々の気持ちに、寄り添っておきたい。

 亡くなった方はおらず、鐘楼は残り、十字架のキリストがかぶっていたとされる「いばらの冠」など聖遺物や、多数ある貴重な文化財も、運び出されて焼失を免れたようだ。

 マクロン大統領は最悪の事態ではないとし、ゴシック建築の代表である大聖堂の再建に着手する考えを表明した。修復費用を出すとの申し出も、各方面から届いているという。

 とはいえ、再建に当たっては、火災の原因、惨事に至った背景について、しっかりと押さえておかねばなるまい。

 捜査当局は、屋根の改修工事の際に失火した疑いがある、とみて調べている。溶接作業によって火が出た、との報道もある。直接の原因は、そうかもしれない。

 大聖堂は、すべて石造りだと思われがちだが、屋根にはオーク材が、ふんだんに使われている。屋根裏付近から出た炎が、屋根全体や尖塔にまで及んで、勢いを強めた可能性がある。

 火災が起きる前から、消防関係者らに「燃えるためにあるようなものだ」と、建物自体の危険性が指摘されていたことを、よく踏まえておくべきだ。

 歴史的建造物が、現代の防火基準を満たすには、大規模な改修が不可欠である。

 それには、膨大な費用を要するし、改修をした結果、歴史的な価値を損なう恐れがある。

 加えて、工事中に火災が起きるリスクがあるということも今回、再認識された。これに、どう対処するのか。世界中の英知を結集して工夫を重ねるしかあるまい。

 日本の歴史的建造物のほとんどが、木造であることも忘れてはならない。

 大聖堂炎上の報を受け、法隆寺や金閣寺などの火災を、思い起こした人も多いはずだ。

 特に関係者は対岸の出来事とせず、「心のよりどころ」である文化財の防火について、これまで以上に注意を払ってもらいたい。