財務省が発表した9月の国際収支速報によると、日本が海外と行った取引の状況を示す経常収支の黒字が、前年同月より3割以上も減っていた。

 世界的な半導体不足を受けて自動車が大幅な減産となり、輸出が鈍ったからだ。

 今後、各国が新型コロナウイルス禍から脱却して生産活動の回復に向かうと、半導体需要はさらに高まるとみられる。

 必要な量を自前で確保しておくことは、日本経済にとって喫緊の課題といえよう。

 今週、世界的半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループ子会社が、熊本県内に新たな半導体受託子会社を設けて工場を建設し、2024年末までの生産開始を目指す計画を発表した。

 当初の設備投資額は約8千億円に及び、先端技術関連で約1500人の雇用を創出するという。

 ソニー側は、出資によってTSMCと協力関係を築き、半導体の安定的な調達が可能となる。

 TSMCは台湾を本拠とし、半導体の製造で世界トップの技術力を誇っている。日本で初めて工場を開設して、製品の供給を始めようとしているのだから、歓迎すべきことなのだろう。

 ただ、今回の計画が、日本政府の誘致を契機に立案され、強力な支援を前提としていることは、しっかりと押さえておきたい。

 政府は、TSMCを念頭に、半導体生産企業の支援制度を検討している。

 基金を創設し、日本への優先的な製品供給といった要件を満たせば、工場建設費の半分程度を補助する案などがあるとされる。

 米中対立の長期化で、すでに各国は半導体の供給網確保に乗り出している。その中で日本の工場が順調に稼働すれば、岸田文雄政権が重点施策の一つに掲げる経済安全保障の強化にはつながる。

 とはいえ、基金の枠組みが正式に決まれば、補助額は数千億円規模に達しそうだ。特定の企業を手厚く支援する意義について、国民に丁寧に説明し、理解を得ておかねばなるまい。

 気になることがある。

 日本の半導体産業は、1980年代後半に世界シェアの過半を占めた。ところが、その後は海外メーカーが伸長して国際的な地位が低下。公的資金を投入して、各社の事業を統合した国内大手は破綻した。

 政府は、産業政策を厳しく点検し、実効性を担保すべきだ。