憧れと若さ、感化し合うレース

女性の生き方や競技、両立選べる社会に

 2022年1月16日に京都市で開かれる皇后杯第40回全国都道府県対抗女子駅伝(日本陸連主催、京都新聞、NHK共催、村田機械協賛)まであと2カ月となった。今年1月の第39回大会が新型コロナウイルスの影響で中止されたため、2年ぶりの開催。今夏の東京五輪ではこの駅伝から巣立った若い世代が躍動し、新たな時代の訪れを予感させた。全国女子駅伝でも活躍した小林祐梨子さん(北京五輪5000メートル代表)に、女子中長距離界への期待を聞いた。合わせて各世代の有力選手を紹介する。

北京五輪5000メートル代表 小林祐梨子さん

こばやし・ゆりこ 兵庫県小野市出身。旭丘中3年時に全国中学体育大会で2冠。須磨学園高時代には1500メートルで当時の日本記録を樹立した。豊田自動織機に入社する一方、社内留学制度で岡山大に進学。2008年の北京五輪で5000メートル代表となり、翌年の世界選手権は同種目で決勝に進んだ。全国女子駅伝は中学時代から計11回エントリー。第27回大会では2区で29人抜きを演じた。15年1月に現役引退。結婚し、2児の母。32歳。

 ―全国女子駅伝が2年ぶりに開催され、40回の節目を迎える。

 「特に中高生には待ちに待った大会だと思う。東京五輪では一山麻緒さんや、田中希実さん、広中璃梨佳さんらの活躍が目覚ましかった。彼女たちは全国女子駅伝でも活躍してきた。高校生はトップ選手たちと同じ区間を走る可能性がある。生で見たら『私もこうなりたい』という気持ちを抱くのではないか」

 ―先輩ランナーからどのような刺激を受けたか。

 「中学生で3区を走った時、同じ兵庫チームだった早狩実紀さんからたすきを受けた。国際大会で活躍している憧れの存在で、興奮のあまり、走った3キロの記憶はほぼない。その後に私も2区を走るようになり、京都代表の早狩さんと競うことができた。オンラインの時代になったが、生身でたすきをつなぐ作業なくして陸上の強化はない。一方で、全国女子駅伝の価値は若手の育成だけではないと思う」

 ―その価値とは。

 「多くの選手は年齢が上がるにつれて自分の力を客観的に見られるようになるので、守りの走りになってしまいがち。だが全国女子駅伝では中学生が攻めの走りを見せてくれる。実業団選手がよく言うのが『自分もああだった』。初心に帰れる価値がある」
 「こうしたメンタルは田中さんや広中さん、1万メートルの日本記録保持者の新谷仁美さんにも共通すると思う。彼女たちは安定した走りというより、『脚が動かなくなるかもしれない』ギリギリのラインで押していくような走り方をする。全国女子駅伝でうまくいかないレースもあったが、その姿勢を貫いたからこそ、五輪での活躍や日本記録につながったのではないか」

 ―今後の日本女子中長距離界の課題は。

 「中学や高校時代に全国女子駅伝で活躍した選手が、社会人になってさらに伸びてほしい。目立たなかった選手が大人になって結果を残す姿にも勇気をもらえるが、中高で活躍しながらドロップアウトする選手を多く見てきただけにそう思う。田中さんや広中さんは理想とする道を走ってくれている」

 ―女性アスリートを取り巻く環境をどのように感じているか。

 「過度な体重管理と食事制限で不調を来す選手がいる。ただやせれば良いというものではない。田中さんも広中さんも新谷さんも女性として体を大事にしている。先輩が後輩のお手本になってほしい」
 「妊娠や出産についても課題がある。東京五輪ではマラソンのゴール後に赤ちゃんを抱いてキスをする女子選手がいた。海外ではそのような姿をよく目にする。一方でいまだに『競技場ではなく、家で子育てしなさい』と批判を受ける競技者もいる。女性アスリートが乗り越えないといけないことは多い」

 ―小林さんは2児の母でもある。

 「私が長男の妊娠を公にしたのは、(2017年の)全国女子駅伝開会式の前に金哲彦さんと対談したイベントだった。金さんの助言もあり、『選手たちに競技だけでなく将来さまざまなステージがあることに気付いてほしい』との思いだった。私は今、スポーツに関わる仕事を続けている。子育てをする母親は一人の女性としての夢を持っていると思う。どんなライフステージでも生きがいを追い求めることができる社会になってほしい」

 

田中、広中、一山 大舞台で輝き

 東京五輪では女子中長距離の若い選手たちが輝きを放った。

田中希実 1500メートル日本勢初出場 8位

 同大4年の田中希実(豊田自動織機TC)は日本勢として五輪史上初出場となった1500メートルで8位。中距離種目の入賞は1928年アムステルダム五輪800メートル銀の人見絹枝以来となる快挙だった。5000メートルでの予選敗退後に父の健智コーチと「みんなができないと思うことにチャレンジしよう」と話し合った。1500メートルの予選は4分2秒33と自らの日本記録を更新。準決勝は海外選手のハイペースに食らいつき、3分59秒19にまで伸ばした。決勝でも攻めの姿勢を貫き、再び3分台をマーク。「世界の中長距離で通用する選手になりたい」と夢を追い続ける。

広中璃梨佳 5000メートル日本新 1万メートル7位

 20歳の広中璃梨佳(日本郵政グループ)は持ち前の積極性が光った。5000メートルは決勝で14分52秒84と福士加代子(ワコール)の日本記録を16年ぶりに更新。1万メートルは7位と日本勢で25年ぶりに入賞した。

一山麻緒 マラソン 8位

 マラソンでは24歳の一山麻緒(ワコール)が先頭集団に食らい付き8位。「できる走りは最後までできた」と力を振り絞り、日本勢として4大会ぶりの入賞となる健闘だった。

 5000メートル代表の21歳、萩谷楓(エディオン)は五輪後に14分59秒36をマーク。マラソンの鈴木亜由子(日本郵政グループ)や前田穂南(天満屋)、トラック代表の新谷仁美(積水化学)、安藤友香(ワコール)、卜部蘭(積水化学)、山中柚乃(愛媛銀行)も再び前を向く。

急成長選手ずらり

不破聖衣来

 大学生では今季急成長した選手が目立つ。拓大1年の不破聖衣来は10月の全日本大学女子駅伝で快走。エースが集まる5区(9・2キロ)の区間記録を1分14秒も短縮する28分0秒という驚異的なタイムをマークした。同駅伝を5連覇した名城大勢では、小林成美がトラック種目の1万メートルで11年ぶりに吉本ひかり(当時佛大)の日本学生記録を塗り替えた。

 同駅伝2位の大東大も実力者ぞろい。鈴木優花は9月の日本学生対校選手権1万メートルを大会新で制し、吉村玲美は3000メートル障害の学生記録を樹立した。同選手権1万メートル2位の飛田凜香(立命大、比叡山高出)も安定感がある。

 

粒ぞろい、着実に力付け

村松結

 高校生は3000メートル8分台の米沢奈々香、杉森心音ら仙台育英勢が好調。水本佳菜ら大阪薫英女学院勢も力のある選手がそろう。全国高校総体の3000メートルでは日本人トップで3位の米沢から8位の村松結(立命館宇治)まで約3秒差の大混戦だった。全国高校駅伝での走りにも注目だ。

 全国中学体育大会の1500メートルでは優勝の川西みち(福岡・北九州永犬丸)から4位の森谷心美(立命館守山)まで約1・4秒差という接戦だった。未来を担うジュニア選手が着実に力を付けている。

 

 

幻の39回「競技会」で実現 コロナで初の大会中止

「京都 女子駅伝・中長距離競技会」の5000メートルで力走する選手たち(2021年1月17日、京都市右京区・たけびしスタジアム京都)

 39回目を飾るはずだった今年1月の大会は、新型コロナウイルスの影響が色濃い昨年9月に中止が決まった。1983年の大会創設から初めての事態となったが、地元の京都陸上競技協会が強い熱意で代替大会を準備。予定していた1月17日に組み込む形で実現した。

 実施されたのは「京都 女子駅伝・中長距離競技会」。異例の形にもかかわらず、たけびしスタジアム京都には中学生から実業団までの114人が集まった。既に東京五輪代表に決まっていた田中希実らトップ選手もエントリー。北京五輪代表の小林祐梨子さんも表彰式のプレゼンターなどで花を添えた。

 3000、5000、1万メートルで計7レースを実施。冷たい雨が降り出す中でも選手たちは全力の走りを見せた。小学生の少女ミニ駅伝も行われ、本来の大会さながらに幅広い世代が西京極での一日を過ごした。大会後には多くの選手から1年後の第40回大会開催を望む声が寄せられた。