江戸時代の禅僧・仙厓(せんがい)の軽妙な禅画の前で「お客さまには、掛け軸などにも関心をもっていただければ」と語る京都吉兆・徳岡孝二会長(京都市右京区)

江戸時代の禅僧・仙厓(せんがい)の軽妙な禅画の前で「お客さまには、掛け軸などにも関心をもっていただければ」と語る京都吉兆・徳岡孝二会長(京都市右京区)

徳岡孝二さん初の著書「最後の料理人」(飛鳥新社)[LF]

徳岡孝二さん初の著書「最後の料理人」(飛鳥新社)[LF]

 京都をはじめ、東京や大阪で活躍した京都吉兆(京都市右京区)会長、徳岡孝二さん(82)が半生を振り返る著書「最後の料理人」を刊行した。「和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたのを機に、経験を次世代に伝えたい」といい、少年時代の味覚への目覚めから料理にかける情熱までをつづっている。

■「食材見極めこそ」次代に

 1936年、兵庫県太子町生まれ。17歳で神戸市での料理修業を始め、56年に憧れの吉兆本店(大阪市中央区高麗橋)へ。創業者・湯木貞一さん(1901~97年)の薫陶を受けて66年に京都支店長、91年、京都吉兆として独立。2009年会長就任後も節目には調理場に立つ。漫画「美味しんぼ」には実名で登場している。

 著書は、ドジョウの思い出から始まる。姫路市に近い田園地帯で育ち、料理人としての原点の味は「自ら川ですくい、炭火でじか焼きして砂糖じょうゆをつけたきつね色のドジョウ」。上海帰りで料理屋経営の祖母がさばき、「素朴な味。中学卒業後に料理人を志したのはドジョウがうまかったから」と振り返る。

■味覚通じた交友記にも

 1930年に吉兆を開店した料理人で、「おやじ」「おやっさん」と慕う湯木さんから「料理のことだけ考え続けろ」と仕込まれた修業時代、先輩料理人との激しいやりとりなどを包み隠さず記述。興味深いのは湯木さんを通じて不昧(ふまい)公こと出雲松江藩7代藩主・松平治郷(1751~1818年)の著書「茶会記」で学んだ季節の味、店の近くで入手する洛西産タケノコの甘みや保津川のアユの味など。「食材の見極めこそが最も大切」と強調する。

 実業家白洲次郎との不思議な縁、東京店時代に接した吉田茂や池田勇人ら歴代首相や現在のパナソニック創業者・松下幸之助の横顔も紹介し、味覚を通じた交遊記としても楽しめる。

 このほど出版を祝う会があり、瓢亭(左京区)の14代主(あるじ)・高橋英一さん(80)らが出席。高橋さんは「扱う食材が素晴らしく、京料理ではない独自の世界を展開されている」と敬意を表する。徳岡さんは「神さんみたいな存在のおやじに追いつけ追い越せの努力が今日につながった」と語っている。「最後の料理人」は飛鳥新社刊、1620円。