当局にとって都合のいい安否情報を流しているのではないか、と不信は募るばかりだ。

 中国の有名な女子テニス選手、彭帥(ほうすい)さんが元副首相との関係を告白後、所在不明になった問題で、突然、中国の政府系メディアが彭さんの姿を動画で公開した。

 さらに、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長がテレビ電話で彭さんと通話し、無事を確認したと発表した。

 来年2月に北京冬季五輪開催を控える中国だ。事態の幕引きを図っているのでは、という疑念は拭えない。

 画面に映る彭さんの笑顔は、本心からだろうか。自由意思で姿を見せたのだろうか。

 疑念を晴らすには、彭さんや家族の安全を保証し、第三者を交えた場所を確保するなどして、彭さんが自由に発言できるようにするしかない。

 「石にぶち当たる卵のように自滅しようとも、起きた事実を話す」。3週間ほど前、彭さんが短文投稿サイトに発信した。元副首相は元共産党最高指導部の一人で、性的関係を強要し、十数年も断続的に関係があったという。

 不都合な告白だったのだろう。投稿はわずか20分後に削除、彭さんに関する情報は遮断された。

 しかし、一度出回った投稿はインターネットで世界中に広がるのが現代だ。テニス界だけでなく国際機関、海外メディアが彭さんの安否を懸念し、事実関係の調査を中国に求めた。人権を重視する世界の流れといえよう。

 中国の政府系メディアは、彭さんの動画のほかメールを公開したが、あくまで海外向けで、国内の情報統制は続けているという。

 彭さんへの強制や圧力が懸念される。これまでから当局ににらまれた人物は自宅軟禁や行動監視などを受けているからだ。

 欧米メディアでは「五輪を開催するのに中国はふさわしいのか」といった主張も出ている。

 中国の人権抑圧に懸念を示してきたバイデン米大統領は、政府高官らを五輪派遣しない「外交ボイコット」を検討しており、欧州でも同調する動きが見られる。

 IOCは五輪開催を最優先し、中国で起きている人権問題から目をそらしているのでは、との批判も聞かれる。

 中国は「外交問題ではない」と説明を避けたまま事態を収拾しようとしているが、それで済むだろうか。彭さんの人権がどうなるか、世界が厳しく見ている。