アイヌを法律上初めて「先住民族」と明記したアイヌ民族支援法が成立した。

 文化振興に偏った従来のアイヌ政策を修正し、地域振興を含めた総合施策へと踏み出す。一歩前進と受け止めたいが、先住民族としての権利には触れていない。アイヌの人々の誇りと尊厳の回復と併せ、いかに経済格差や偏見を解消するか。実効性が問われよう。

 2007年に国連で「先住民族権利宣言」が採択され、宣言を踏まえて翌年、国会決議でアイヌを先住民族と認めて10年余り。ようやく、との感は否めない。「日本は単一民族国家」といった誤った認識から、国として公式に決別したとも言える。意義は大きい。

 新法によると、国はアイヌ政策推進本部を設置し、基本方針を策定する。これに基づき市町村が文化、産業、観光振興のための地域計画を作ると、新たな交付金が関係事業に支出される。施策の実効性を高めるには、国や市町村がアイヌの人々の思いをくみ取り、具体的なニーズを把握しながら政策を進めていく必要がある。

 アイヌは明治政府によって同化政策を強いられた。生活基盤を失い、貧困を余儀なくされてきた。

 1997年に旧北海道土人保護法を廃止し、アイヌ文化振興法が制定された。民族文化や技術の継承などで一定の成果を上げたものの、アイヌの世帯収入や進学率の低さなど格差は残ったままだ。

 新法は先住民族としての権利回復の面で不十分さが目立つ。伝統サケ漁の許可は簡素化されたが、土地や資源の回復、教育権など具体的な権利保障に踏み込まなかった。国会は国連宣言の趣旨を踏まえるとした付帯決議を付けたが、法的拘束力はない。

 過去の政策への反省も謝罪もない。アイヌの暮らしを長らく侵害し、支配し、差別してきた歴史に真正面から向き合い、共生への道筋をきちんと描くべきであろう。

 安倍晋三首相は1月の施政方針演説で「アイヌの皆さんが先住民族として誇りを持って生活できるよう取り組む」と述べた。観光立国を巡り、国がアイヌ文化振興の拠点として来年4月開業を目指す「民族共生象徴空間」に言及したくだりだった。アイヌ文化を単に観光振興に利用するとの視点でしか捉えていないとすれば残念だ。

 先住民族アイヌの暮らしを元に戻すのは難しいが、国の責任は重い。私たちもアイヌの歴史と現況を知り、独自の信仰や言語、文化への理解を深めていきたい。