新型コロナウイルス禍で2度目の年明けを迎えた。

 この間、産業活動は低迷を続けたままだ。

 その影響なのか、一昨年の国内の温室効果ガス排出量は二酸化炭素(CO2)換算で1990年の統計開始以降、最少だったという。

 世界気象機関は、一昨年に世界の化石燃料由来のCO2排出量が前年より落ち込んだとする一方、大気中の平均濃度は観測史上の最高値を更新したと報告している。

 経済活動とCO2排出の関わりの密接さとともに、排出量が多少減ってもすぐには温暖化防止につながらないことを実感させる。

 昨年も、欧州や中国での記録的な豪雨、米国での大規模な山火事など深刻な自然災害が頻発した。

 豊かな生活を目指す経済活動が気候危機となって人間を脅かす悪循環が、いよいよ際だってきた。

 50年前、科学者や実業家らでつくる国際的な団体ローマ・クラブが「成長の限界」と題する報告書を発表し、世界に衝撃を与えた。

 CO2の削減だけでは

 産業活動による排出物の増大が自然界の吸収機能を飽和させ、化石燃料からの熱が気象異変をもたらすと指摘した。その上で、「現在の成長率が不変のまま続けば、100年以内に地球上の成長は限界点に達する」と訴えた。

 環境汚染や天然資源の枯渇が問題化する中、際限のない成長は不可能、とする強い警告だった。

 半世紀後の今、状況はいっそう悪化し、人類の存亡さえ危ぶまれている。もはや単なるCO2削減だけでは済まないのではないか。

 化石燃料の消費を前提に成長を追い求める経済・社会システムを維持し続けることができるかどうかが鋭く問われている。

 南米ブラジル・アマゾンの熱帯雨林は多量のCO2を吸収し「世界の肺」と呼ばれてきたが、この半世紀で面積が約2割縮小した。

 同国が生産量世界一を誇る大豆などの作付けのため大規模伐採が進んだ。大豆は大部分がバイオ燃料や飼料用に輸出され、先進国のエネルギーや肉食への需要を支える。森林破壊は降雨を減らし、深刻な干ばつを頻発させている。

 ファッション業界のビジネスモデルにも批判が強まっている。製造や輸送に大量のCO2排出と用水を伴い、石油産業に次いで環境に負荷をかけているとされる。

 低価格で多種類の商品をそろえて消費者に頻繁な買い替えを促す手法は、衣類の大量廃棄にもつながっている。生産を担う途上国で劣悪な環境に置かれている労働者が多いことは周知の事実だ。

 先進国の成長が途上国の犠牲の上に成り立っていることに、多くの人が気づいている。

 見過ごせないのは、今後の「脱炭素社会」実現の切り札となりそうな分野でも、格差などを生む構造が温存されそうなことだ。

 欧米では、自然エネルギー分野などのインフラ整備に多額の公共投資を進めて新たな雇用や成長を促す政策が進められている。

 日米欧の政府がガソリン車の販売を規制する動きを見せ、自動車各社は新車を電気自動車(EV)などに切り替える方針を示した。

 先進国の生活見直せ

 気候危機が、際限なく利潤を追求する資本主義の必然的な結果だとした著作で注目を集める思想史家の斎藤幸平さんは、EVの電池に必要なリチウムやコバルトの採掘に伴い、南米やアフリカで過剰な地下水くみ上げなどの環境破壊が起きていると指摘する。

 地球環境保全を念頭に置くEV普及で、さらに多くの資源が求められるのは矛盾でしかない。

 斎藤さんは資源の収奪を前提とする先進国の「帝国的生活様式」の抜本的見直しが突きつけられていると主張し、「脱成長」を訴える。持続可能な世界を考える上で心に留めておきたい視点だ。

 ただ、先に豊かになった国々が気候対策のために他国の発展まで制限することには抵抗もある。途上国は厳しいCO2排出削減を迫る先進国を、「既存の格差を悪化させる」と批判している。

 地球に暮らす私たちは、グローバルな経済活動の根底にある格差や人権侵害などを直視し、すべての人間が共存できる適切な解決策への理解を広げねばならない。

 フロン規制を参考に

 参考になりそうなのは、上空のオゾン層を破壊するフロンガスを規制するに至った1980年代以降の国際的な取り組みだ。

 南極で確認されたオゾンホールに危機感を募らせた科学者らが啓発に努め、国連も各国に話し合いを働きかけた。環境団体などが活発に動き、産業界も回収徹底や代替品への切り替えを進めた。

 国際世論に押される形で、フロンの種類ごとに段階的な製造禁止などが決められた。オゾン層は現在、回復途上にあるという。

 50年前の「成長の限界」作成に関わった研究者グループは、その30年後の著書でフロン規制の経緯に触れ、「地球の限界に立ち向かう取り組みにも、勇気と希望を与えてくれる」と評価している。

 小さな行為の積み重ねが、地球と人類の未来を救う大きな流れになりうる。そう信じたい。