耕作放棄地に植樹したレモンの木を剪定する矢野さん(京都府宮津市日置)

耕作放棄地に植樹したレモンの木を剪定する矢野さん(京都府宮津市日置)

素材を生かし、皮や果肉も味わえるレモネード(矢野大地さん提供)

素材を生かし、皮や果肉も味わえるレモネード(矢野大地さん提供)

 宮津湾から風が吹き付ける京都府宮津市日置地区に、寒冷地では見慣れないレモン畑が広がる。5年前までは雑草が生い茂る耕作放棄地だった。今は、樹高1~2メートルのレモン約60本が陽光を浴びる。「実ったら収穫会を開きたい。近くにキッチンカーを置いて試食会をしたりするのもいいですね」。畑を管理する矢野大地さん(29)が葉を剪定(せんてい)しながらほほ笑んだ。

 高知大(高知市)を卒業後、「自分の力を試したい」と、同県本山町の山間部に移り住み、米や野菜を育てて自給自足の生活を送った。さらに教師を目指し、進路に悩む若者たちを支援するNPO法人も設立。自然の中で一緒に過ごしながら多くの相談に乗った。

 一方で、帰省するたび、人口が減り、休耕田などが広がる故郷の姿に心を痛め、「放棄地を活用し、何か新しい作物を育てられないか」と思いを募らせていた。

 そんな時、同市日置の実家の庭にあるレモンの木が目に映った。「露地野菜と違い、植え替えなくても毎年実を付けてくれる」。本やネットで調べると、府北部にレモン栽培農家は少ないことがわかり、「独自性を出せるのでは」と考えた。もともと「身につけた力は故郷で生かす」と決めていたこともあり、2021年3月に宮津市にUターンした。

 本格的に取り組むため、ツイッターで「詳しい栽培方法を知りたい」と発信すると、香川県三豊市の農家とつながることができ、苗木の植え方や肥料のまき方などを泊まり込みで教わった。「剪定が重要」と、枝を縦ではなく、横に広げるよう助言も受けた。

 新たな挑戦に上宮津地区で農業を営む男性が賛同し、昨年3月から男性や祖父の所有する遊休地に国産の苗木計250本を植えた。収穫を見据え、産品を加工、ブランド化する会社「百章」も設立。宮津市の創業者支援事業に採択され、補助金で加工場も建設。NPO時代の友人や大学の後輩も加わり、事業がスタートした。

 農林水産省によると、市場に出回るレモンは米国産など9割が輸入品で、保存のため防腐剤や防カビ剤を使用したものもある。矢野さんは自然のまま育て、皮まで食べられるものをと、農薬は極力使わないようにこだわる。

 厳しい寒さの中でレモンを育てるには防寒対策も欠かせない。風よけのため幹に不織布を巻いてみたが、雪が付着して枝が折れた。冬になると根からの吸収が弱まるため、葉面に栄養剤を散布するが、液体が凍り枯れる恐れもあるという。だが、雪中の遊休地を鮮やかなレモン色に染めたいという思いは日に日に強まっている。

 現在は7~8割が順調に育っている。実を結ぶまでには植樹後2、3年が必要で、来冬の初収穫を前に、レモンの魅力を発信する取り組みも始めた。昨年5月から毎週末、宮津市浜町で香川県産レモンのレモネードを販売している。素材を生かし、皮を砕いてシロップに漬け、手でむいた果肉を完成前に盛り込む。「飲むというより食べているみたい」と好評だ。

 「レモンは主菜にはならないが、食材を引き立たせてくれる。雪国でとれたレモンを広めたい」。丹後の豊富な食に新たな彩りが加わる日を矢野さんは思い描く。