「結婚しないの?」
 そう聞かれることが増えてきたのは20代半ばの頃。「またか…」と苦笑いをしつつ、やり過ごしてきた。32歳の今、仕事に趣味にとそれなりに楽しい日々を送っている。なのに時折、未婚/既婚で区別されているように思うことや、肩身の狭さを感じることがある。ふとした時に感じるこの息苦しさは何だろう。(京都新聞・井上真央)

マッチングアプリで婚活を続ける女性。結婚への純粋な憧れと焦燥感が体を覆う

■アプリで婚活、高まる焦燥感

 「結婚したら『勝ち』とは思わないけど…何でこの子ができて、自分はできないのかと感じてしまう」

 京都市の会社員女性(31)はそう言って、マッチングアプリの画面に視線を落とした。アプリを使い始めたのは当時の恋人と別れた20代半ばの頃。「事前に相手の雰囲気も分かるし、合コンより効率がいい」。今まで20人近くの男性と会い、交際したこともあった。しかし、互いの気持ちのずれや価値観の違いから、別れを選んできた。

さまざまな種類があるマッチングアプリ。求める相手像や目的ごとに複数のアプリを使う人も多い

 始めた当初は恋人探しが目的だったが、20代後半からは結婚を意識するようになった。30歳が目前に迫り、「出産」を考えるようになったためだ。日本産科婦人科学会は35歳以上の初産の女性を、胎児の染色体異常などのリスクが高まる「高年初産婦」と定義する。「体力もないし、スムーズに妊娠できないかも」。友人たちが続々と結婚していく中、焦燥感を募らせる。

■結婚は当たり前の選択ではないけれど…

 1970年代前半に年間100万組を超えた婚姻件数は、2018年には58万6千組に減り、1947年以降で最低となった。かつて生涯未婚率と呼ばれ、1990年は男女とも5%前後だった50歳時の未婚割合は、2015年には男性23・4%、女性14・1%に上った。1人の生活を楽しむ人、結婚せずパートナーと歩む人。男女問わず、結婚は当たり前の選択肢ではなくなった。

 

 それでも、女性はやはり「結婚したい」と強く思う。ずっと1人はさみしい、子どもが欲しい、友人と足並みをそろえたい…。理由は簡単には言えない。先日、初めて結婚相談所の資料を取り寄せた。費用はかかるが本気度が高い人が集まり、情報も信頼できる。でも登録はしなかった。「やっぱり、相手をちゃんと好きになって結婚したい。35歳を超えたら、そんなのかなぐり捨てて登録するかもしれないけど」。

~記者の思い 結婚のメリット、容赦なき本音

 「一番は社会的に変な目で見られなくなったことかな」

 結婚して良かったことは? という私の問いに、医療専門職の女性(32)はさらりと答えた。女性は婚活の末、2年前に結婚。会社員の夫と兵庫県に暮らす。自宅玄関には結婚式の写真やペアの人形が並び、幸せな雰囲気が漂う。彼女の容赦ない答えに驚くと同時に、口にしにくい本音を代弁してもらった気もした。

■「女性としての価値、幸せ」って?

 女性は高校時代から、現在の職種を目指し大学院に進学。卒業後、病院で働きながら強く追い求めてきたのが「妻」の肩書だった。

女性宅の玄関に並ぶキャラクター人形。野球好きな夫妻の仲の良さが伝わってくる

 背景には、独身女性に注がれる冷ややかな視線があった。印象深いのは、院生時代の病院実習初日のこと。指導担当の男性から「結婚しなあかんよ」と諭された。「院卒は女性としての価値にはならない。僕はキャリアを追ううち、女性としての幸せを逃す人を見てきたからね」。同じようなことは、職場や飲み会で数えきれないほどあった。「自分が頑張ってきたことが、世間からはそう見られるのか」。やり切れない思いは、心に澱(おり)のようにたまっていった。

■結婚は「生きるための逃げ道」

 20代後半から合コンに通い、結婚相談所も登録した。「女性らしさ」を出すため、普段とは違う淡い色の服を着て、趣味はピアノと強調した。他人から外見や年齢で評価され続け、お互いさまとはいえ、自尊心は削られた。結婚したときは「本来の自分でいていいんだ」と思えたという。婚活用の服はすぐに売った。

 もちろん、結婚して良かったことは他にもある。がんで急逝した父にウエディングドレス姿を見せられたこと。安定した生活基盤ができたと感じられること。今、改めて思う。「焦らず、相手と向き合う時間をもっと大切にすれば良かったとも思う。けれど、当時の私にとって結婚は、生きるための逃げ道だった」