~記者の思い 選択肢が多いことは幸せか?

 今の女性は、昔に比べればはるかに仕事や楽しみ方の幅は広がり、何を選ぶのかの自由度も増している。でもその半面、結婚・出産を巡って社会に刷り込まれた価値観に、どこかで接しざるを得ない。「今の人は選択肢が多くて大変やね」。70代の母がふと漏らした言葉を思い出した。

■親が求める「理想の結婚相手」

 「初婚、大学卒、正社員、家庭的で優しい方、37歳位まで」。「初婚、大学卒、教員、誠実で優しい方、41歳位まで」

 男性は水色、女性はピンクに色分けされた紙に、ずらりと並ぶ職業や学歴、相手への希望の数々。これは、独身の子どもを持つ親同士の「お見合い」で使われるリストだ。

親が描く「理想の子どもの結婚相手」像。家庭的、誠実、真面目…さまざまな条件が並ぶ

 2005年設立の一般社団法人「良縁親の会」(京都市下京区)は、親同士のお見合いを全国で催してきた。その数約540回、参加者は延べ4万人以上。「早く結婚して家庭を持って」。わが子の「幸せ」を願う親の思いは切実だ。中には世間体を気にして悩みを周りに話せず、会場で「私の育て方が悪かったのか」と涙する親もいる。

 何が親をここまで子どもの結婚に駆り立てるのか? 良縁親の会代表理事の宮越のり子さん(69)は「親世代は結婚して家庭を持ったことが自分のアイデンティティーとしてある。自らの歩んだ道や価値観を、子どもに押しつけてしまう人もいると思います」と語る。

昭和の「集団見合い」。今は「婚活パーティー」として同様の催しが開かれている

■自治体は少子化対策で「婚活支援」

 「結婚しなきゃ」と思わせる空気を生み出すのは親世代だけではない。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は2020年に1・34まで低下。2065年には高齢者1人を今の半分近い1・3人の現役世代で支える計算となる。今や出生率向上は国の「命題」。国や自治体は婚姻・出生数を増やそうと「婚活支援」にまで乗り出している。

 出生率が2012年から4年連続で全国ワースト2位となった京都府も、2015年に婚活イベントなどを紹介する「きょうと婚活応援センター」を開設した。登録数は独身の男女約千人。担当者は「自治体が運営する安心感が強み。この6年間で約860組が成婚しました」と胸を張る。

京都府が婚活支援として実施した男女の交流イベントの様子。背景には加速する少子化がある=京都府提供

■婚活で求められる「らしさ」の呪縛

 ただ、結婚と出産は個人の自由のはず。少子化は確かに課題だが、公から結婚して子どもを産むことを求められているかのような違和感は拭えない。

 心の内で描く理想の相手像にも、実は見えない圧力が―。下京区で結婚相談所「ブライダルサロンHISAYO」を営む松村寿代さん(50)は、女性には初回のデートで淡い色のトップスやスカートを着るよう助言する。家庭的な印象がある保育士の人気が高い一方、大学院卒は男性の方がひるんで避ける傾向も。一方で男性は、女性から一定の収入やリードする強さを求められがちだ。

 「バリバリ働く女性を求める男性や、おごられるのが嫌という女性も増えている。とはいえ、価値観はそう大きくは変わりません」

■結婚で得られる経済的基盤が破綻すると…

 根深い男女格差も結婚の選択に影を落とす。高度成長期、日本では「夫は会社員、妻は専業主婦」の家族像が主流になり、この「役割分担」を基に税制や社会保障が作られた。だとすれば親世代の女性にとって、結婚は社会で生き抜くためのよりどころだったのかもしれない。今も女性の社会進出が進んだとはいえ、その賃金は男性の7割程度。1ページ目に登場した「結婚は生きるための逃げ道」と語った女性(32)も、正規雇用の少なさに悩んでいた。

婚活の末に結婚した女性の記念写真。「結婚は生きるための逃げ道」と冷静に語っていた

 しかし、その選択は時に危うさを伴う。新型コロナウイルス禍で浮き彫りになった「女性不況」。結婚して家事や育児を担うために正規職を辞め、パートや派遣で働いていた多くの女性が職を失った。シングルマザーの状況はより深刻だった。結婚で得られる経済的基盤はそれが破綻したとき、驚くほどもろい。

~記者の思い 多様性の時代、私らしい選択を

 仕事、結婚、出産…。何を、いつ選ぶか、あるいは選ばないのか。そこに正解も不正解もない。理由も人それぞれだ。ただその岐路に立った時、男女格差や社会の圧力が一人一人の本心を覆い隠すことがないように。そう願わずにいられない。