■今なお、働きたい女性たちを阻む壁は高い
ここまではいくつも壁に直面しながら会社に残り、社内改革を進めた男女雇用機会均等法第一世代の女性を取り上げた。一方、国立社会保障・人口問題研究所の2015年調査では、第1子出産の前後に仕事を辞める女性は半数近く。均等法第三、第四世代の時代に入った今も出産を機に辞めざるを得ない人は多い。

子育てを理由に仕事を離れたが、再就職を望む女性のために活動する宇治市のNPO法人「働きたいおんなたちのネットワーク」。専業主婦かフルタイム勤務かの二者択一でない、「週に2時間から働ける仕事」をつくり出している。
■育児、介護…それでも働きたい
理事を務める髙田悦子さん(51)も一度は仕事を諦めた一人だ。23歳で結婚、引っ越し先の宇治市で複数の企業に応募したが「妊娠の可能性」を理由に落ち続けた。やっと1社に採用されたが、27歳で長男を妊娠すると育児と両立できないと考え、会社を辞めた。

出産の直前、母親がくも膜下出血で倒れた。育児と介護を同時にこなすダブルケアが始まる。終日続く母親の世話、介護食と離乳食の調理、病院の付き添い。先の見えない不安と孤独―。息をつきたくて託児付きの市の催しに足を運び、会場で同ネットの存在を知る。
「働きたい」。髙田さんは、「働きたいおんなたちのネットワーク」のスタッフに相談し、長男の小学校入学を機に、子育て中の母親から話を聞くスタッフとして週2、3回働き出した。
■コロナ禍の痛み、女性を直撃「暖房は使わない」
「働きたいおんなたちのネットワーク」には再就職の難しさやダブルケアなど仕事と家庭の両立に悩む母親のほか、シングルマザーやDV被害者も相談に来る。最近は新型コロナウイルス禍のあおりで困窮を訴える相談者が急増している。
「コロナで勤務時間が減らされ手取りが10万円ちょっと。光熱費を節約するために暖房は使わない」
「通帳に20万円しかない。ちょっと病気をすれば立ちゆかなくなる。減っていくのが怖くて眠れない」
「風呂は入れずにシャンプーは日を決めてやって、体はふくだけにしている」

社会福祉士の資格も取り昨春から正規雇用になった髙田さんとは対照的に、しんどさから懸命に抜け出そうとしてきた女性を今、コロナ禍が直撃している。中でも10代と20代の相談者が増えており、生活支援のためにインスタントの年越しそばや入浴剤、香りの良い洗剤を渡すととても喜ばれる。
「普通に見えているけど、ほんのちょっとした物が買えない。見えない所でぎりぎりまで切り詰める人が増えている」。悩みに寄り添う髙田さんの目に、今の女性はそう映る。
■女性の就業は「L字カーブ」
女性の就業状況を表す言葉に「L字カーブ」がある。正規雇用が20代をピークに下がり続けることを示すグラフのことだ。企業に定着できなければ管理職比率も下がる。

京都新聞社の昨年末の京都・滋賀主要109社企業調査では「女性役員ゼロ」が5割、課長級以上の女性管理職の比率は「1割未満」が7割以上。一方、育休取得率は「男性社員が2割未満」は約8割に対し、「女性社員が9割以上」は4分の3。数字からは、育児を主に担い、キャリアアップを阻まれている女性の姿が浮かぶ。
■均等法施行から30年たっても続けられなかった
“辞めざるを得なかった”別の女性を訪ねた。大阪府高槻市の直井奈緒美さん(39)。2008年、大学院で心理学を修めた直井さんは大手広告代理店傘下の市場調査会社に就職した。徹夜と休日出勤は当たり前、夜8時に翌朝締め切りの仕事が入る。「でも、手掛けた調査が大企業の広告に使われる喜びは何物にも代えがたかった」。男性と肩を並べて働き、遊んだ。

33歳で結婚し翌年に長女を出産。育休後復帰したが、深夜残業ができない直井さんには補助的な役割しか与えられなかった。前に無理がたたって体調を崩したことへの不安もあった。37歳のとき会社を去った。
■諦めない、自分らしい働き方
直井さんも諦めなかった。新しい働き方を探し、巡り合ったのが、家事・育児を抱えてのキャリア形成に悩む主婦や女性会社員が集う「子連れMBA」。乳幼児同伴でビジネスを学んだり、再就職や社内でのキャリアアップなどそれぞれの挑戦を応援し合ったりするグループだ。

直井さんは子連れMBAを通して京都市西京区の食品メーカーを知る。持ち前の行動力を発揮して社長に直談判し、再就職した。2年前に二人目が生まれた。今はテレワークでできる業務を主に担う。
■望む仕事、成長。ずっとできる社会であってほしい
新年を2週間後に控えた2021年12月16日。「半径5メートルから世の中を変える」をテーマにした子連れMBAのミーティングがオンラインで開かれた。今後、女性のために会社で行動するなど「変化を起こせる人」になるための講義や研修を予定しており、1回目のこの日は直井さんを含む20人の母親が画面上で自己紹介した。赤ちゃんを抱いた女性が手を振る。

自分らしく、しなやかに働くために―。直井さんは訴える。「チャレンジしきれていなかったり、望む仕事に就けなかったりする女性が今もたくさんいる。30代、40代でも成長できるし、成長し続けたい。それができる社会であってほしい」