25人もの命がなぜ奪われたか。真相の解明は困難となったが、その疑問を社会は問うていかねばならない。

 大阪市北区の繁華街・北新地にあるビルが放火され、入居する心療内科クリニックに通院していた人や医師らが亡くなった事件から1カ月がたった。

 大阪府警は、殺人と現住建造物等放火の疑いで谷本盛雄容疑者を特定したが、発生の2週間後に死亡した。多くの人を巻き込む「拡大自殺」を図ったとみられている。

 焦点は容疑者の動機だ。

 元は板金工として働いていたが、妻と離婚後の2010年以降は定職に就いていなかった。昨年5月までに複数回、生活保護を申請したが受給には至らず、預金口座の残高はゼロだった。所持していたスマートフォンの電話帳に登録者はなかったという。

 交友関係が狭く、社会との接点をほとんど持たずに生活していた様子は、36人が死亡した2019年の京都アニメーション放火殺人事件の被告とも共通する。

 容疑者は、職場復帰などを支援してきたクリニックに17年から通院していたという。何がきっかけで標的としたのだろうか。

 北新地の事件は、ビルに階段が1カ所しかなかったことも被害拡大の一因になった。

 容疑者がクリニックの出入り口付近に火を放ち、すぐ近くの階段が使えなくなったため、犠牲者は逃げ場のないフロアの奥に閉じ込められる形になった。

 全国に同様の構造のビルは約3万棟ある。階段など避難経路の増設は費用面から難しさもあるが、排煙装置や窓、避難器具の充実などの対策は考慮すべきだろう。

 クリニックにまかれたガソリンの扱いも課題だ。

 京アニ事件で用いられたことを受け、20年に消防法令が改正された。携行缶などに詰めて販売する場合、事業者に使用目的の確認を義務付けたが、谷本容疑者は購入の際、「トーチランプやバイクに使う」と説明していた。

 昨年、徳島市の雑居ビルで起きた放火事件などでもガソリンが使われており、抑止効果には疑問がある。不正使用の歯止めとなる販売規制の在り方を見直す必要もあるのではないか。

 今回の事件では、多数の犠牲者の遺族や、クリニックに通院していた人たちへのケアが求められている。行政や警察は民間団体とも協力し、長期的な視点で支援してほしい。