「セクハラです!」って言いにくい。場の空気が壊れそうだから?仕返しが怖いから?でも、ちょっと待って。セクハラが駄目なのは当然なのに、なぜ声を上げにくいのだろう。実際にセクハラを受けた女性2人と京都女子大学のジェンダーの専門家、京都新聞の記者の計6人で、一緒に事例をひもといてみた。見えてきたのは、私たちの社会が抱える、被害の訴えを封じ込める構図だった-。

■対談の参加者
Aさん…10代女性、大学1年生
Bさん…30代女性、メーカー勤務
南野佳代さん 京都女子大法学部教授、副学長、専門はジェンダー法と法社会学
手嶋昭子さん 京都女子大法学部教授、専門は家族法とジェンダー法
辻智也記者…2006年入社、39歳
天草愛理記者…2018年入社、27歳

■【Aさんのケース】年下女性の反応を探りながら「この言葉、知ってる?」

 大学の部活の集まりが男子学生のアパートであったときのこと。2~3年の男性が数人、Aさんを含め1年女性が2人参加した。
 男性同士が、自分が経験した性行為の話を始めた。時折「この言葉、知ってる?」などと女性の反応を探りながら。
 Aさんは、会話には加わらず「私は空間にいないものとして話して」と思いながら過ごした。

Aさんが受けたセクハラの再現イラスト

 分かります。わざと聞こえるようにして反応を楽しんでるみたいな。Aさんが年下だからでしょうか。

 下級生だからというより、「この子は下ネタを言って大丈夫かどうか」と試されていた気がします。

 耐性を測って、選んでいるんですね。

手嶋 Aさんは、どんな気持ちでした?

 疎外感がありました。入りにくい会話が進んでしまうので。ただ、当初はその集まりに参加しないと、部活の輪に入れないという焦りもありました。

■わい談は仲間に入るための「快速切符」?

 Aさんは嫌だったが「やめてほしい」「セクハラです」とは言えなかった。なぜ、その声を飲み込まなければならなかったのか。

セクハラを受けた時の「聞きたくない」気持ちを、対談の参加者に再現してもらった

 逆ギレされるとかの恐怖よりは…、場の空気が壊れ、部活の関係づくりがストップして、もうお呼びがかからなくなるという心配がありました。「不快だな」と思うけど「嫌です」と抗議できるほど信頼関係もないから、聞き流した感じです。

手嶋 関係性を壊す覚悟をしないと抗議できない。女性の立場を示しています。先輩たちは、積極的に会話に入ってほしかったのでしょうか。

 はい、「女を捨てて、男の輪に入ってこれるやつ」と認められるのだと思います。部活行事を通じても仲間になれるのですが、わい談に乗ることで仲間への「快速切符」が手に入るという感じですかね。

■下ネタを女性と話せる男は「すごい」というゆがんだ指標

 なぜ、こうしたセクハラをしてしまうのか。嫌がる人がいることは、分かっているはずなのに。

加害側は、嫌がっている人を「見ない」ふりを続けているのではないか

南野 まったく、こんなことして何が楽しいんですか。

 楽しいというか…。一定数の男性が、社会的地位や体力、知性、モテ度などを指標に「優れた男競争」をしている気がします。私もその一人です。そこに、「こんな下ネタ、女性と一緒に話せる男はすごい」というゆがんだ指標もある。

天草 …そのために女性を利用するのですか。

南野 男性の仲間内では、女性を「手段」として扱うことができれば、より優れた男性として認められるのですね。

 しかも、抗議さえ、冗談にすり替える。「分かってるよ」と軽く流すような感じで。

手嶋 抗議が単なる「つっこみ」にされ、予定調和的に消費される。止める力を持たず、より抗議しにくくなる。「セクハラですよ」って、非常にシリアスに言わないと伝わらないんでしょうね。

■「乗る」か「乗らない」かで、女性が分断されてしまう

 ゆがんだ「優れた男競争」は、目の前の被害者だけを傷つけるわけではない。わい談に「乗る人」と「乗らない人」の間に、無用の溝を生む。

 部活の女性同士で、「嫌だよね」とか話し合ったことはあるんですか。

 実は、女性の先輩に相談してみたら「乗るか乗らないかは、あなたの選択」と。実際、乗る人も乗らない人もいます。乗らない子は飲み会の輪に加わりにくい感じです。

 女性が、わい談に対する態度によって自然に分断されてしまうんですね…。

わい談に加わる女性もいる。雰囲気に「乗る」「乗らない」で分断が生まれる

■「何も言えなくなる」という反論は間違っている

 「そこまで言われると、何も言えなくなる」と思うかもしれない。でも、そんなことはない。

 もしかしたら一部の男性は、女性に対して、距離を縮める方法がよく分からなくて、自分が盛り上がれるわい談をしてしまうのかなと思うこともあります。未熟というか、引き出しが少ないというか…。

 確かに。でも先輩も、常に下品ではないんです。おいしいご飯の話は盛り上がるし、「俺はあの場所でこの魚を釣りたい」とかロマンのある話は楽しいです。

南野 「女性に用があるのは性的なことだけ」という意識を捨てて、普通に一人の人間として付き合ってほしいですね。

■仕返しへの恐怖だけでなく、人間関係から疎外される構図

 「セクハラです」と言いにくいのは、仕返しへの恐怖といった表面的な理由だけではない。性的な会話に乗らないと、人間関係から疎外される構図があるのではないか。

 そして、「男」競争をしている男性たちは、「セクハラ」自体を自分たちの指標として、温存しているのかもしれない。

 続いてBさんのケースをひもとく。Aさんのように、露骨に性的な嫌がらせを受けたわけではないが、人をモノ化する構図のセクハラが潜んでいた。