京都市北区の細野寛さん(88)はアルツハイマー型認知症の中期の症状で、会話が難しくなってきている。長年連れ添った妻の直子さん(83)は、寛さんの言動の意味が分かる。だが、理解していても心身共に疲れる場面が増えてきた。直子さんは「耐えられへんときがあります」と打ち明ける。
 半年間取材して見えてきたのは、日本における介護の現状だった。27枚の写真と夫婦の言葉から、認知症介護の現場で起こっていることを伝える。(松村和彦)

【以下、記事より抜粋】

寛さん「飯の用意してくれ」
直子さん「まだ時間早い」
寛さん「頼む、頼むわ」
直子さん「まだ時間が早いの。無理なことばっかり言わはる」

直子さん
ご飯をなんぼでもくれくれ言うんです。
食べさせんとうるそうて。
おいしい思て食べてくれてるのかな。
認知症になる前、私の友達が家に来てたら、「もう飯やし帰って」って言ったんですよ。
よう62年も過ごしてきたと思いますわ。でも、私を頼るしかない。
私も放っておけへん。
構い過ぎと周囲からは言われるんです。

寛さん「もうみんなおらんねや」

直子さん
近所の友達がみんな亡くなってしまったという意味ですわ。
一緒にカラオケに行った友達がいっぱいいたんですよ。
お父さんは演歌の夫婦の歌が好き。
いつも友達の前で「会津街道ふたり旅」を一緒に歌わされました。
恥ずかしいから嫌やのにいっつもです。
他の女の人とは歌わへん。私としか歌わへん。
恥ずかしがり屋で手をつないで歩いたこともない。
歌でしか言えへんかったんかな。

直子さん
2021年に入ってからお父さんの時間がめちゃくちゃなんです。
朝昼晩が分かっていない感じで、朝や昼にも寝ます。
夜に起きたら覚醒してしまう。
「はよ起きい」と連発して私を起こす。
「寝なあかんやん」って言っても表に出たり入ったり。
話が通じひんからかなんのです。
私は睡眠が取れずにしんどいです。

直子さん
10月に私が腰の骨を折りました。
夜はズキズキと痛んで、歩行器がないとだめです。
お父さんを施設が預かってくれないと手術もできません。
特別養護老人ホームに入れればと考えました。
でも、今のお父さんは落ち着かずに、じっとしてへんから入れへん。