在宅医療に関心が向けられているだけに、衝撃は大きい。

 先月、埼玉県で訪問医療に熱心な医師が、患者家族の男に散弾銃で撃たれ死亡した。

 男は、在宅で医療を受けていた母親の死後、医師や看護師ら7人を自宅に呼びつけ、謝罪や蘇生を求めたとされる。動機には不明な点が多いが、以前から訪問医療や介護を巡って度々トラブルを起こしていたという。

 特異な事件で片付けるわけにはいかない。在宅の医療や介護の現場では、患者や家族から暴力や嫌がらせを受けることが後を絶たないからだ。

 担う人たちの安全や尊厳が守れないと、医療・介護体制そのものが揺らぎかねない。見過ごされがちなリスクに目を向ける必要がある。

 患者や家族から身体的暴力を受けた訪問看護師は45%、精神的暴力で53%、セクハラ48%―。全国訪問看護事業協会が2018年に実施した調査の結果だ。回答した訪問看護師約3200人のうち半数が何らかの被害を経験しているということだ。

 別の看護団体が挙げた事例をみると、コップを投げつける▽服を引きちぎる▽つばを吐く▽包丁を向ける▽怒鳴る▽盗人と言い続ける▽手を握る▽みだらな言動を繰り返す―などがある。

 利用者全体からみれば一部だろうが、許される行為ではない。先の調査では73%が「訪問に行きたくない」、26%が「仕事を辞めたい」と思ったという。

 病院でも医療者への暴言などが見られるが、在宅医療は密室で1人対1人にもなりリスクが高い。派遣する医療機関や事業所の対策が欠かせない。トラブルを報告、相談しやすい環境や、組織的な対応策を備えておくべきだろう。

 現場向けに、リスクを想定した対応マニュアルもある。訪問中は退路を確保▽ドア近くに座る▽事業所に1人待機し、緊急時に警察に連絡▽複数で訪問―などだ。

 ただ、小さな医療機関や事業所では、人手が少なく負担が大きいという。海外では警備員の同行もあるようだが、コストがかかる。対策整備には支援が必要で、国や自治体が関与すべきだろう。

 住み慣れた地域で在宅医療を受ける高齢者が増えている。期待に応えるには、医師や看護師、介護スタッフの充実が欠かせない。多くの人が満足することでトラブルを未然に防ぎ、もし問題が起きても丁寧に対応できるはずだ。