書類や対面でのやりとりが中心だった法廷の在り方が様変わりするかもしれない。

 法制審議会が、2025年度までに民事裁判の提訴から判決まで全ての手続きをオンラインでできるようにする民事訴訟法改正などの要綱を法相に答申した。政府は今国会に法案を提出する。

 裁判所に足を運んだり、書面を印刷したりする手間や費用を減らし、迅速な審理が期待できよう。

 ただ、効率を追求する一方で、憲法が国民に保障する「裁判を受ける権利」が脅かされることがあってはならない。IT機器に不慣れなデジタル弱者が不利益を被らない仕組み作りも欠かせない。

 日本の裁判手続きを巡っては、欧米やシンガポール、韓国などに利便性や効率性で遅れているとして、経済界などからIT化の推進を求める声が高まっている。

 すでに民事裁判の非公開の争点整理や和解協議などで、裁判所と弁護士事務所などをインターネットでつなぐ「ウェブ会議」の導入が進んでいる。

 今回の要綱は、口頭弁論のオンライン化やネットを通じた書面のやりとりなど法改正が必要な手続きにも踏み込んだ。

 実現すれば、弁護人らの出廷が不要となり、裁判官との日程調整がしやすくなるため、スムーズな訴訟進行につながる。新型コロナウイルスの感染防止対策としても有用だろう。

 ただ、拙速なIT化は「裁判の公開」という原則を弱めてしまう懸念もある。

 裁判官は、書面だけでなく、原告や証人らの声を法廷で直接聞くことで判決に至るさまざまな判断をしている。モニター越しの音声や映像でも裁判官の心証に十分働きかけることが可能なのか、議論を重ねてもらいたい。

 内閣府の20年の世論調査では、オンライン提訴を義務化することについて、「反対」「どちらかと言えば反対」と答えた割合は計51・7%に上った。「誰もがネットを利用できるとは限らない」ことなどが理由だった。

 要綱は、弁護士にはオンライン提訴を義務づける一方で、弁護士をつけない本人訴訟では義務化から除外した。日弁連は、弁護士会の事務所にIT機器を設置するなどデジタル弱者の支援策も講じるとしている。

 個人情報や企業の秘密が多く含まれる訴訟記録のセキュリティー対策を徹底することも含め、国民が不利にならない制度設計が求められる。