憲法で保障される表現の自由を脅かす権力の姿勢が問題となっている。

 陸上自衛隊が一昨年2月の記者向け勉強会の資料で、今後の活動で警戒すべき対象としてテロやサイバー攻撃と並べて「反戦デモ」を例示していたことが、国会で取り上げられた。

 資料は、記者の指摘を受けて配布翌日に回収し、文言を「暴徒化したデモ」に差し替えたという。

 松野博一官房長官は「誤解を招く表現だった」と事実関係を認めたが、それで済む話ではない。

 デモは、憲法21条で「集会・結社・表現の自由」として保障されている。

 国民が意思を示す行動をテロと同一と見て、敵視することは看過できない。不適切な認識を改めるべきだ。

 資料では、「予想される新たな戦いの様相」として、反戦デモやテロなどについて武力攻撃には至らない手段で自らの主張を強要する「グレーゾーン」事態に当たるとしていた。

 他の事例には「報道」も挙げられていた。鬼木誠防衛副大臣は「事実に反する事柄を意図的に報道する行為だ」と説明するが、政権の方針に批判的な市民行動や報道を抑え込みたいという意識が垣間見える。

 折しも、ロシアのウクライナ侵攻に対し、世界中で反戦デモが広がっている。

 逆にロシアではデモや報道への弾圧が強まっている。

 こうした市民の意思表示を危険視することが国の進む道を誤らせることを深く認識すべきだ。

 表現の自由の制限に警鐘を鳴らす司法判断が先月あった。

 2019年の参院選で安倍晋三首相(当時)が街頭演説していた場所でやじを飛ばし、北海道警の警察官に排除された男女2人が道に慰謝料など損害賠償を求めた訴訟の判決で、札幌地裁は排除の違法性を認めた。

 判決は、犯罪予防のために危険行為を制止できると定めた警察官職務執行法の要件を満たす行為はなかったとした。

 その上で、「安倍辞めろ」といったやじの内容は「公共的、政治的事項に関する表現行為」だとし、「特に重要な憲法上の権利」として尊重されるべきとした指摘は重い。

 平和と民主主義には自由な意思表明が欠かせない。表現の自由の扱いにもっと慎重になることが必要だ。