京都府宮津市に研究拠点を置く京都大発ベンチャー企業「リージョナルフィッシュ」(京都市左京区)がゲノム編集技術を使って開発した「22世紀ふぐ」を市がふるさと納税の返礼品にしたことが、波紋を呼んでいる。市が同社の技術に期待を寄せる一方、一部の市民から食の安全性や生態系への影響を懸念する声が出ており、市議会でも情報開示に消極的な市の対応が疑問視された。
同社は2020年から、同市小田宿野の宮津エネルギー研究所内で、ゲノム編集による魚介類の品種改良と養殖を進めている。ゲノム編集は、酵素で魚の遺伝子を切り取り、突然変異を人為的に促すもの。これまで放射線や薬品などを使い30年以上かけて行っていた品種改良を2~3年で可能にする。
市は昨年末、ふるさと納税の返礼品にゲノム編集トラフグ「22世紀ふぐ」のてっさ・てっちりセットを採用。城﨑雅文市長が自身のツイッターでPRする力の入れ様で、4月25日時点で49件147万円の寄付が集まった。
一方、市民からは困惑の声が上がる。
施設近くで遊漁船を営む女性は「食の安全性が確保されていないのに、十分な説明もないまま全国に発信してしまうと、みんなが『安全な食品だ』と思ってしまう」と危惧する。同社は養殖用の水槽に3重の網を設け、卵や稚魚が流出しないようにしているが、遊漁船を営む女性は「1匹でも(ゲノム編集された魚が)海に出てしまったら、大変なことになる」と生態系への影響を懸念する。
3月下旬には、漁業者や農家らでつくる市民団体が市を訪問、同社が宮津市に進出した経緯や、施設の管理態勢などを城﨑市長に問いただし、返礼品撤回を申し入れた。
市議会3月定例会で城﨑市長は「私は技術を評価している。世界的課題となるタンパク質不足の解決につながる技術を持つ企業が宮津にあるというのが素晴らしいと思う」とリージョナル社への期待感を示した。しかし、議員からはゲノム編集食品に関する質問が相次いだ。市の情報開示への消極的な対応を批判し、住民説明会の開催を求めたが、市の返答はなかった。返礼品の安全性については「国が定めた通知に基づき届け出がなされていることから安全」(永濱敏之産業経済部長)とし、市独自の調査は行わないとした。