政府が介護の予防や自立支援に成果を上げた自治体に手厚く配分する交付金を、大幅拡充させることが分かった。
年末に編成する2020年度当初予算案で、現在の2倍の400億円程度にするという。
「予防」に力点を置く安倍晋三政権の社会保障改革の一環だ。病気予防の交付金も同様に大幅増額される見通しとなっている。
介護費の膨張を抑える狙いがある。政府の試算によると、介護保険給付費は18年度の10・7兆円から、団塊世代全員が75歳以上になる25年度に15・3兆円、40年度には25・8兆円に急増する。
予防を進めることに異論はないが、その方法には違和感があると言わざるを得ない。
交付金は18年度に創設した「保険者機能強化推進交付金」。
高齢者の要介護度の変化や、身近な地域で体操や趣味を楽しむ「憩いの場」の参加者数といった評価項目に基づき、各自治体への配分額を決めている。
今回の拡充では評価指標も見直し、積極的に取り組む自治体への配分をより手厚くし、消極的な場合は減らす仕組みに改める。
いわゆる「アメとムチ」の手法である。
動機づけにはなるかもしれないが、交付金獲得を優先しすぎると制度をゆがめる恐れがある。
自治体側からは異論が相次いでいる。小規模自治体は都市部と比べ人口や財政状況などの条件が不利であり、実績に応じて交付金を毎年奪い合う構図は地域格差の拡大につながる懸念も拭えない。
実績を数値化する評価方法についても項目が抽象的で、数字だけが独り歩きしているとの批判が上がっている。
さらに気がかりなのは、国が前面に出て推進することで「不健康は悪」という風潮が強まらないかということだ。
要介護状態を予防できなかった人が悪いという「自己責任論」が広がるのは避けたい。さまざまな立場や事情があることに目配りを忘れないでほしい。
社会保障制度の持続可能性が危ぶまれ、給付と負担の見直しは避けられない。
とはいえ近年の政府の介護政策は、自立や予防への偏りが目立つようだ。サービス利用の抑制に前のめりになっていないか。
予防は大切だが、自治体間の競争をあおること自体が「不健康」といえよう。政策目的や効果も踏まえつつ、誰もが気持ちよく取り組める方法を求めたい。