言語機能回復に向けたグループでのしりとりの様子。利用者同士でヒントを出し合うなどコミュニケーションが生まれていた(京都市西京区)

言語機能回復に向けたグループでのしりとりの様子。利用者同士でヒントを出し合うなどコミュニケーションが生まれていた(京都市西京区)

 脳機能の著しい低下が日常生活に支障をきたす「高次脳機能障害」がある京都市北区の藤田彩子さん(51)が、高次脳機能障害者支援の事業所「つむぎ」(西京区)の職員として、同じ障害に悩む人々と向き合っている。人とのコミュニケーションがうまくとれず、かつて6年間の引きこもり生活を経験した藤田さんは「多くの人に迷惑を掛け、助けられた。今度は人を助ける力になりたい」と、当事者としての目配りを生かした支援を心掛けている。

  藤田さんは39歳の時に仕事から帰宅中に横断歩道で車にはねられ、頭蓋骨骨折などの重傷を負った。後遺症は残らなかったが、嗅覚を失い、味覚は低下した。約3週間の入院後に医療事務の職に復帰したが、めまいがひどく杖(つえ)を使わなければならなかった。以前と変わらず仕事はできると思ったが、周囲の理解が得られず数日で辞めた。
 高次脳機能障害と診断されたのは事故から3年半後。当時は医療者の間でも障害が十分に知られておらず診断が遅れたという。激しい感情の起伏を抑えられず、テレビのリモコンを投げて壊したり、路上でわめき散らしたりすることもあった。今も忘れないのが昼夜逆転した引きこもり生活。何に対しても意欲が湧かず、疲れやすく、つらかった。「自分が障害があると認めたくなかった」と振り返る。
 通所を始めた中京区の障害者支援施設にもすぐには通えなかった。当時の施設長は何度も電話して「無理しなくていい」と言ってくれた。ある日、生活訓練の一環で昔から好きだったイタリア料理を作ったら好評で、徐々に自信を取り戻した。支援員にと誘ってくれたのも「リーダーシップがあるところを見抜いていたのかも」。施設が閉所するまで約2年半働いた。
 昨年7月、施設長と面識のあったつむぎの所長から声を掛けられ、非常勤の支援職員として週2~3回勤め始めた。50~70代の利用者7人ほどに脳機能回復トレーニングのためのしりとりや計算問題などをパソコンで作り、一緒に解いていく。「当事者の頑張りを認め、極力否定しない」ことが大切という。
 京都市高次脳機能障害者支援センター職員の櫻井直子さんは「グループ脳トレでは障害特性の異なる各利用者のレベルに合わせるのが難しいが、藤田さんは様子を見ながら気を配って進行するのがうまい。利用者にとっても、実体験をもつ支援員からの助言は比較的受け入れやすい」と話す。
 藤田さんが高次脳機能障害と診断されて来月で9年になる。支援制度などは進んだが、まだ社会の理解は十分とはいえない。「どこに行っていいか分からず苦しみ、自分と同じように引きこもっている人もきっといる。悩んでいるのは自分だけじゃないんだと伝えたい」と話す。

■高次脳機能障害
 事故や病気による脳損傷で後天的に発症する認知障害。主な症状は、集中力低下や気が散りやすい注意障害▽計画を立てて物事を進めるのが難しくなる遂行機能障害▽新しい出来事が覚えにくくなる記憶障害▽感情のコントロールが困難になる社会的行動障害-などがある。失語症や抑うつなどを発症する場合もあり、個人差があるのが特徴。厚生労働省の2016年調査では、該当者は全国で32万7千人と推計している。