在日コリアンが多く暮らす宇治市伊勢田町のウトロ地区に放火したとして起訴された奈良県の22歳男の初公判が京都地裁で開かれ、被告は起訴内容を認めた。

 事件は昨年8月に起き、民家など7棟が全半焼した。「ウトロ平和祈念館」の展示予定品の一部も焼失した。

 公判では特定の民族を標的としたヘイトクライム(憎悪犯罪)との関連や、動機として民族差別が認定されるかが焦点となる。なぜ事件が起きたのか、司法はしっかり動機や背景に踏み込んでほしい。

 ウトロ地区は戦時中に京都飛行場建設に集められた朝鮮人らが戦後の混乱の中で集住した。所有者による土地の明け渡し訴訟で不法占拠状態とされた住民側が土地の一部を購入し、2017年に住民が暮らす市営住宅が新設された。

 被告は昨年7月に在日本大韓民国民団愛知県本部などに放火した罪にも問われている。

 検察側は冒頭陳述で愛知の放火について「無職となった劣等感などから鬱屈(うっくつ)した気分になり、憂さ晴らしをしたいと考え、韓国人に悪感情を抱いていたことも相まって火を付けた」などと指摘。社会の注目を浴びようと、さらにウトロ事件を起こしたとした。

 被告は拘置所で京都新聞社の取材に応じ「韓国人に恐怖感を与えることを意識していた」と証言した。動機は「政治的主張」であり、祈念館を巡るヤフーニュースのコメント欄の差別的な書き込みに賛同を示す反応が数千件付いていたことが「指標となった」という。

 新型コロナ禍で就職が困難になり「失うものがない状態だった」とも話した。

 インターネットで偏った情報を集め、在日コリアンに対して一方的な歴史認識を深めたとみられる。どんな考えがあるにせよ放火という暴力は許されず、身勝手な犯行と言わざるを得ない。

 ヘイトクライムは各国で深刻化し、ネオナチによるトルコ系移民の殺害などが発生したドイツは14年に刑法を改正して差別的動機があった場合は量刑に反映することを明記した。だが、日本にはそうした規定がない。

 京都朝鮮第一初級学校へのヘイトスピーチ問題をきっかけに16年にヘイトスピーチ対策法が施行されたが、差別言動は収まらない。

 今回の検察の冒頭陳述では「悪感情」との言及はあった。今後の公判では被告の置かれた環境を含め、十分な事件の解明を進めてほしい。