裁判員裁判の対象事件などで、警察と検察に取り調べの全過程の録音・録画(可視化)を義務付けた改正刑事訴訟法が施行された。

 自白の強要などを防ぎ、供述が容疑者の自由意思に基づくか(任意性)を後から検証できるようにするためだ。「冤罪(えんざい)の温床」と批判されてきた密室内の取り調べからの転換点といえよう。

 すでに捜査機関は試行して義務化対象事件の大半で録音・録画をしている。検察は裁判での有罪立証に積極的に活用する動きにあり、裁判員らに強い印象を与える映像を根拠とする「自白頼み」がかえって強まる懸念も出ている。

 恣意(しい)的な利用とならないための可視化対象の拡大や、公判で映像をどう扱うかなど課題は多い。

 可視化は、大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件への批判を受けた刑事司法改革の柱として、2016年の法改正で定めた。警察庁のまとめでは、全国の警察は18年度に裁判員裁判対象事件の9割近くで全過程の可視化を試行し、導入が進んだようにみえる。

 だが、可視化の範囲は全事件の3%にとどまる上、任意捜査の段階は含まない。取調官が十分な供述を得られないと判断した場合は実施しない例外規定もあり、取り調べの適正さを担保するには全面化を進める必要があろう。

 法施行前に対象事件の可視化が進んだのは、検察が記録映像を供述調書の証拠力を支える「実質証拠」として積極活用する方針へかじを切った影響も大きい。

 注目すべきは、05年に栃木県で起きた女児殺害事件を巡る裁判だ。一審は映像の供述態度を重視して有罪と認定したが、二審の東京高裁は同じく有罪ながら、映像を任意性の判断には使えても、信用性の見極めでは「印象に基づく判断となる可能性がある」として一審の認定方法は違法とした。

 安易な映像再生は「法廷がただの上映会になってしまう」との慎重論も根強いとされる。映像活用の評価は定まっていないのが現状だ。

 自白が真実かどうかは多角的な検証が欠かない。検察は供述を客観的に裏付ける証拠を集め、整合性ある立証に努めることが前提であり、その上で映像の扱い方のルール化に向けた議論を深めるべきだ。

 刑事司法改革では、可視化と併せて通信傍受の対象犯罪の追加や司法取引の導入で捜査権限が強化された。冤罪防止という原点に立ち、乱用を招かないよう監視、点検していかねばならない。