琵琶湖の在来魚が遡上(そじょう)して産卵できる環境を整えた滋賀県の取組「魚のゆりかご水田」が注目されている。

 ゆりかご水田を柱の一つに位置づけた「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」が2月、農林水産省が認定する日本農業遺産に選ばれた。

 さらに、国連食糧農業機関(FAO)が認定する「世界農業遺産」への申請も決まっている。

 漁業と農業が一体となって発展してきた湖国の農業文化を守り、世界に発信していく機運を高めるきっかけにしてほしい。

 ゆりかご水田は、琵琶湖と沿岸の水田を魚が自由に行き来したかつての生態系を復活させ、漁獲量が激減するニゴロブナなどの在来魚を増やそうと、県が2001年に始めた。水田はプランクトンなどの餌が豊富で外敵の外来魚が少なく、稚魚の成育に適している。

 県の実験で、卵からの生残率が高いことも分かった。

 魚はちょうど今の時期に遡上する。用水路に堰(せき)板などを用いて設けた魚道をさかのぼり、水田で産卵。6月から7月に水田の水位を下げる中干しをすると、成長した稚魚は琵琶湖へ流下する。

 水田で開く自然観察会は、小学生たちが湖とともにある暮らしや、湖、川、山とつながる循環型の農漁業を学ぶ絶好の機会だ。水田のオーナーやサポーターを有料で募って田植えや生き物観察会に参加してもらい、協力の輪を広げる試みも定着してきた。

 18年度は県内28地域の148ヘクタールで取り組み、作付面積は10年前のほぼ倍に増えた。

 県は、農薬と化学肥料の使用量を半分以下に抑える環境こだわり農産物を推進中だ。「ゆりかご水田米」は、環境こだわり農産物の認証に加え、魚毒性の低い除草剤を使用するなど、より厳しい基準で手間をかけて栽培されている。

 ただ、農業遺産として、次世代に残すには課題も多い。

 新しい試みとして、ゆりかご水田での酒米作りや米粉の菓子などの加工品開発が始まったが、販路の開拓はこれからだ。

 琵琶湖の在来魚を育む環境で育った米というストーリーを全国の消費者にどのように訴えていくのか、企画力が問われる。

 ゆりかご水田を担ってきた地域の生産者も高齢化が進んでおり、後継者育成が急がれる。新規就農や集落への移住促進につながるよう、県を挙げて支援する十分な態勢づくりも求めたい。