来春、本当に海に流すというのだろうか。

 東京電力福島第1原発でたまり続ける処理水について、政府が2023年春をめどに海へ放出する方針を決めて1年余り。原子力規制委員会が、放出設備設計や手順を盛り込んだ計画を実質的に了承した。1カ月の意見公募の後、早ければ7月にも正式に認可する方針という。

 処理水は、事故を起こした原子炉建屋などを通った注水や雨水などの「汚染水」を浄化したものだ。技術的に除去できない放射性物質トリチウムを含むが、規制委は安全上の問題はないとした。放射性物質濃度が基準を下回っていることを常時監視する方法なども確認。放出終了まで数十年間かかるという。

 先日、現場の福島原発を訪れると、1キロ沖合に処理水を放出するための海底トンネルの準備工事が進んでいた。港湾部に巨大なシールドマシンが設置され、大型船による海底整地も始まっている。程なく本格工事にかかれるような状況だった。

 千基余りという処理水を保管するタンクは、確かに原発構内にぎっしりと並ぶ。来秋にはすべて満杯になり、これ以上の増設は廃炉作業に支障をきたす。放出は待ったなしというのが政府、東電の理屈である。

 政府は地元が懸念する風評被害対策として、21年度補正で海産物の買い取りなどへの基金300億円も計上している。

 だが、短い期限や規制委の了承、基金、準備工事と次々に外堀を埋めて地元に了解を迫るかのような手法は疑問だ。

 岸田文雄首相は先月、初めて全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長と会談して理解を求めたが、会長は「いささかも反対の立場に変わりはない」と明言した。1年前、同会長が菅義偉首相(当時)に反対を伝えた直後、首相が海洋放出を発表した経緯もあり、両者の溝は修復の兆しが見えない。

 東電への不信はさらに根深い。浄化済みとしていた処理水にトリチウム以外の放射性物質が残留していたり、処理水の保管タンクの満杯時期を何度も繰り下げたりするなど事故で失った信頼を取り戻すには程遠い。規制委の実質了承に対し、宮城、茨城の両県知事は処分方法の再検討などを政府に求めた。

 処理水の海洋放出に、国民の理解も進んでいると言い難い。復興庁による今年1月のインターネット調査では、海洋放出の方針を知っていたのは4割余りにとどまった。

 政府と東電は15年に福島県漁連に「関係者の理解なしには、いかなる処理水の処分もしない」と約束している。現状のまま放出を強行するようなことがあっては混乱と将来への禍根を招くだろう。国民の理解が必要な今後の長期にわたる廃炉作業にも、悪影響を及ぼしかねない。

 風評の阻止には確かな科学的根拠と強い発信力、そして一定の時間が必要だ。政府と東電はスケジュールを再検討するとともに、国際原子力機関(IAEA)や第三者の研究者らも交えて安全性の確認、地元や消費者、周辺国への説明に覚悟をもって取り組むべきだ。