44歳の長男を刺したとして元農林水産事務次官が逮捕された。長男は死亡した。

 元事務次官は長男について「引きこもりがちで家庭内暴力もあった」と供述していることが分かった。

 川崎市の児童殺傷事件で、自殺した51歳の男は引きこもりがちだったとされる。元事務次官は「事件を知り、長男が人に危害を加えるかもしれないとも思った」との趣旨の話をしているという。

 男が引きこもりだったことは事実としてあるかもしれないが、そもそも事件と関係があるかどうかは何も解明されていない。

 引きこもりは状態を表す言葉であり、短絡的に犯罪と結びつけてはならない。一人一人の姿は多様であり、ひとくくりにしてしまっては危険だ。

 事件によって誤解や偏見が広がる恐れがあるとして、当事者や家族会が相次いで声明文を発表した。必要なのは、支援の手を差し伸べることだ。

 偏見は当事者や家族をますます追い詰め、事態を深刻化させかねない。むしろ社会全体で引きこもりへの関心と理解を深める契機としたい。

 内閣府は40~64歳の引きこもりの人が全国で約61万人に上り、若年層を上回ると初めて公表した。だが「実際にはこの倍はいる」と指摘する専門家もいる。

 中高年の引きこもりの人と高齢の親が生活に困窮するケースは、80代の親が50代の子の世話をすることから「8050問題」といわれ、各地で顕在化している。

 内閣府調査によると、中高年の引きこもりのきっかけは退職が36%と最多で、就職氷河期や非正規などの不安定な雇用状況が背景にあるとみられる。

 政府は、就職氷河期世代の就労や正社員化を進める集中支援策をようやく打ち出した。

 長期化で親子関係は硬直、支援を拒むなど行政の介入は難しい場合も多い。

 そうした中で社会との接点をどうつくるか、専門家の意見を聞きながら丁寧に探っていくしかない。

 引きこもりの人は自らを責め、なかなか周囲に相談できないという。無理やり社会に出そうとするのは本人にとって圧力となり、かえって追い詰めてしまう可能性もある。どこに相談したらいいか分からない親もいる。

 専門の支援体制をつくるなど、当事者や家族と支える側をつなぐための工夫が必要だ。