女性が審理のため5カ月近く通った京都地裁。「元裁判員として、最後まで見届けたい」(京都市中京区)

女性が審理のため5カ月近く通った京都地裁。「元裁判員として、最後まで見届けたい」(京都市中京区)

 「それでは開廷します」。今年3月1日、大阪市の大阪高裁で開かれた刑事裁判。法壇に着席した3人の裁判官を、傍聴席から特別な思いで見つめる女性がいた。1年半ほど前までは、自身も法壇から法廷を見下ろす立場だった。

■判決の「その後」 見届ける

 被告は出廷しなかったが、開廷から5分が過ぎたころ、法廷の外の裁判所職員が書記官の元に来て、耳打ちした。書記官はすぐに裁判長に何かを伝えた。「被告が出廷を希望しているようです」。裁判長の言葉にどよめく法廷で、女性は「彼女らしいな」と思った。

 2017年6月、女性は6人の裁判員の一人として京都地裁の101号大法廷で被告と初めて対面した。「どこにでもいそうなおばちゃんという感じ。本当に凶悪事件の犯人なのだろうか」。被告席に座るのは、向日市などの男性4人を青酸化合物で殺害したとして殺人罪などに問われた筧千佐子被告(72)。検察側は、青酸による毒殺事件だと主張し、弁護側は全面無罪を訴える。双方が真っ向から対立する中、裁判員として被告と向き合う日々が始まった。

 公判は被告人質問で急展開した。「私がやった。明日死刑が執行されようと、笑って死ぬ覚悟です」。弁護側が求めた黙秘方針はあっという間に覆り、その日から思いの丈を打ち明け始めた。

 生い立ちや最初の夫との暮らし、縁遠くなった家族との関係…。女性には、被告の多弁さは自身の惨めさや不安をかき消すための強がりに聞こえた。一方で、ユーモアを交えて語る様子に知的な側面も感じた。女性は被告の発言の真意を確かめようと何度も質問を投げた。

 計135日間の審理期間は当時、全国で2番目の長さだった。長期審理をめぐり裁判員の負担を懸念する声も出たが、女性は「むしろ被告のことをもっと知りたかった」と語る。

 導いた判決は、死刑。京都地裁の裁判員裁判で初の極刑宣告だった。弁護側は「結論ありきの判決」と批判し、即日控訴した。だが女性は「考えに考え抜いた結論。決して死刑ありきの議論ではなかった」と判決には自信を持つ。

 裁判員を経験し、「人生の価値観が変わった」と振り返る。無力感も感じた。「いくら裁判員が良い意見を出しても、裁判官を納得させることはできないと思った。『市民感覚』ってなんだろう」

 沈思が続く。裁判員解任後の今も、被告の事件に関する本や刑事司法の専門書を読む。死刑判決が下された別の大型裁判も傍聴した。

 今年3月の筧被告の控訴審初公判では結局、本人は法廷に姿を現さなかった。

 どうしても飲み込めない思いもある。「人の死は望まない。でも冷静に罪の重さを考えると、死刑しかなかったのかな」。一審判決が覆らなければ、いずれ刑が確定する。執行されると思うと、言葉が出てこない。

 5月24日の控訴審判決も傍聴した。「私は被告の人生を決めた裁判員。最後まで見届けたい」

 

 市民が裁判官とともに罪の重い刑事事件を裁く裁判員裁判制度が始まって10年を迎えた。「司法に対する理解や支持」を掲げた制度理念と市民の距離は、どこまで縮まったのか。裁判員経験者らの声から考える。