国民生活の安定と向上を図る「国民生活センター」(相模原市)を、歴代首相の中で初めて視察したのは福田康夫氏だとされる。「産業育成庁はもう古い」と話して明治期からの殖産興業策を修正、消費者に目を向けた▼これが、2009年の消費者庁創設につながる。以来、10年。同庁は、こんにゃくゼリーによる事故など、省庁間に埋もれる事案に対処した。課題も多いが、国民に欠かせない組織となっている▼政治のレガシー(遺産)と、いってよい。寺子屋の教科書だった「実語教」の言葉を借りると、富は一生の財(たから)にすぎないが、知恵は万代の財で、後々まで受け継がれていくという▼福田氏は、わずか1年で首相の座を降りた。きょう通算の在職日数が歴代最長の2887日となった安倍晋三首相ならば、さらに多くのレガシーを残してもおかしくないはずだ▼戦後、安倍氏以前に長期政権を維持した吉田茂氏は日米安保条約を締結し、佐藤栄作氏は沖縄返還を果たした。いずれも歴史的にみて、大変重い政策である▼経済最優先を掲げる安倍氏は、アベノミクスをレガシーとしたいようだが、やや軽いように思える。任期中に、悲願の憲法改正を成し遂げるのも難しい。実語教にある「山高きが故に貴(たっと)からず」をかみしめ、謙虚に身を尽くすべきだ。