人工呼吸器を使うなどコンサートへ行きづらい人のための演奏会(京都市上京区・カトリック西陣聖ヨゼフ教会)

人工呼吸器を使うなどコンサートへ行きづらい人のための演奏会(京都市上京区・カトリック西陣聖ヨゼフ教会)

 人工呼吸器やたん吸引器の作動音、反射的に声が出てしまうなどの理由で、音楽の生演奏鑑賞をあきらめがちな障害者や難病の人たちに向けたコンサート(主催・ICT救助隊)がこのほど、京都市上京区で開かれた。会場でアンケートを配布するなど声を聞いたところ、「クラシックの演奏会は、たん吸引時の周囲の観客の目が気になって行きづらい」「車いすや障害への対応で不快な思いをした」など、公演をあきらめている実態が浮き彫りになった。

 「難病の日」の5月23日、カトリック西陣聖ヨゼフ教会に、次々と車いすの人や難病患者が詰めかけた。演奏者はウィーン交響楽団で首席チェリストを長く務めた吉井健太郎さん(64)。会場の教会をヘルパーや家族を含め約160人が埋めた。

  参加者で車いすを使う人は35人、うち人工呼吸器ユーザーは約10人。バッハの無伴奏チェロ組曲や「鳥の歌」の深い響きを楽しんだ。吉井さんが奏でる音が、人工呼吸器が刻むかすかなスーッという音のリズムと溶け合っていく。「呼吸器の音は気にならなかった」との声が会場では多かった。

 三宅由美子さん(上京区)は、吉井さんのチェロ演奏を後方の席で、夫の遺影とともに聴いていた。全身が徐々に動かなくなっていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した夫の尉雄さんをヘルパーの支援を受けながら約10年、自宅で介助してきたが、尉雄さんは今年1月、80歳で亡くなった。三宅さんは「夫が生きていたら…音楽が大好きでしたから」と話す。

 三宅さん夫婦は以前、京都市内の公共ホールで開かれたシャンソンの演奏会に行った。尉雄さんの人工呼吸器作動音へのクレームを観客から受けたという主催者に、観客席から退出するよう要請され、ロビーのモニターで鑑賞せざるをえなかった経験がある。

 「人工呼吸器も改良され静かになってます。ホールに通って顔見知りになると、『またいらしてね』と温かく対応してくれました。歩み寄れば、お互いに気持ちよく音楽を楽しめる」

  脊髄性筋萎縮症(SMA)の田中茜吏(あかり)さん(21)は「チェロのきれいな音に、何台もあるように聞こえました」と話した。アイドルの公演にはよく出かけるが、クラシックはたん吸引時の音が気がかりで、敷居が高いと母のひとみさんは言う。「(人工呼吸器を使う)知人が公演で入場を断られたと聞いたことがあります。コンサートではアリーナ席が取れても車いす席がないことがありました」

 ALS患者の江畑明美さん(65)=京都市南区=は「心地よい音楽でした。こんな音楽会がもっとあったらいいのに。ジャズのライブは行くけれども、クラシックは吸引時の人工呼吸器のアラーム音など気兼ねがある」と話す。

 会場で集めたアンケートでは、映画館を含めて舞台などを見にくい場所に車いす席が指定されていることへの不満や、声が出てしまった時の周囲の目に対するつらさ、介助者のチケット代が負担との声が複数あった。座位がとれずリクライニング型の車いすを使っている人からは、車いす席に誘導されても視点が低く舞台が見えないとの指摘もあった。

 チェロ奏者の吉井さんは「どんな人にも音楽を届けたい。障害のある子どもが声を出しても気にならない」と言い、さまざまな障害者や患者の前で演奏を続けてきた。

 では、ホール側は人工呼吸器にどう対応しているのか。京都コンサートホールやロームシアター京都などを管理運営する京都市音楽芸術文化振興財団は「人工呼吸器など医療機器を使っておられることを理由に鑑賞をお断りすることはない。主催者によっては、車いす席周囲のチケットを販売せず空席にするなど対応をしているところもある」としている。