成長と分配を好循環させて、持続可能な経済の実現を目指すのが「新しい資本主義」とされる。

 単に成長を促すだけでなく、その果実を分配して国民の間の格差を是正していくのだから、方向性としては望ましい。

 それなのに、公示された参院選の論戦で、あまり取り上げられていないのは残念である。

 「新しい資本主義」は、昨年秋の自民党総裁選で、岸田文雄首相が看板政策として打ち出した。

 岸田氏以前の安倍晋三・菅義偉両政権における経済政策の基本はいわゆる「アベノミクス」であった。大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略の「三本の矢」をもって、日本経済を再生しようとした。

 円高を是正して株価を上げて、大手企業を中心に業績を回復させた。しかしその恩恵が、広く国民に及んだとは言い難い。

 そこで岸田氏が、経済政策の力点を、格差是正や分配に移したのは、当然の流れであろう。

 ところが当初、分配の「原資」に充てようとした株式売却益など金融所得への課税強化は、市場の反発もあって、早々に封印してしまった。

 参院選公示前、事実上の与党公約となる「新しい資本主義」実行計画を決めたものの、分配に関する政策は、最低賃金の早期引き上げや、少額投資の非課税制度拡充にとどまった。

 池田勇人元首相の「国民所得倍増計画」に倣い、「令和版所得倍増」を唱えていたのに、家計に貯蓄から投資への移行を促す「資産所得倍増プラン」に置き換えてしまった。これでは、掛け声倒れといわれても仕方ないだろう。

 選挙戦で野党は、主に物価高対策を巡って、与党への批判を強めている。大事なことではあるが、その一方で、今後の経済政策について、中長期的な展望を示していく必要がありそうだ。

 日本の平均賃金は、約30年前からほぼ横ばいの状態で推移している。

 この状況を脱するには、欧米などと比べて安すぎるとされるモノやサービスの値段を、見直すべきだとの主張がある。

 企業の内部留保に当たる利益剰余金は、約500兆円にも上っている。これを活用することはできないものか。新しい資本主義、特に分配に関して与野党は、財源も考慮した具体策を掲げて議論を深めてもらいたい。