原子力災害はいったん起きれば、長期間にわたり甚大な災禍をもたらす。2011年に東京電力福島第1原発で起きた未曽有の事故で多くの人が身に染みて分かっているはずだ。

 ところが、政府は脱炭素社会の実現に加え、原油高や電力需給逼迫(ひっぱく)を理由に原発の再稼働に前のめりだ。

 原子力は電力の安定供給に役立つとし、政府は「重要なベースロード電源」と位置付け、最大限活用していく方針だ。

 温室効果ガスの排出量を50年に実質ゼロにする目標を掲げ、昨年改定した第6次エネルギー基本計画では「原子力の持続的活用」を明記。6月に閣議決定した「骨太方針」にもエネルギー安全保障の強化をうたい、再生可能エネルギーの促進と併せて「安全最優先の原発再稼働」を盛り込んだ。

 同基本計画は原発の電源構成比率を20~22%とするが、原発30基程度の稼働が前提となる。だが福島の事故後、10基が再稼働したものの、現在も運転しているのは4基に過ぎない。

 脱炭素化で進む火力発電所の休廃止で、電力不足が深刻化している上、ウクライナ危機に伴い燃料調達のリスクも重なり、経済界からは原発の再稼働を求める動きが強まっている。

 とはいえ、再稼働への国民の不安は根強い。

 特に原子炉の耐久性など未知数な点が多い老朽原発への懸念は大きい。福島事故を教訓に運転期間は「原則40年、最長で延長20年」がルール化された。だが40年超の原発が昨年再稼働し、原則の空洞化が進む。

 さらにウクライナへ侵攻したロシア軍が史上初めて運転中の原発を攻めた。戦時下の文民保護を定めたジュネーブ条約は原発への攻撃を禁じるが、武力攻撃というリスクも露呈した。

 このところの記録的な猛暑で綱渡りの電力確保が続く。電力危機が表面化する中、各党の公約は脱炭素や再生エネの導入促進で一致する一方、原発を巡る立ち位置は異なる。

 自民党や公明党、日本維新の会、国民民主党は、政府方針同様に安全を前提にした原発の活用を主張する。ただ公明は将来的に原発ゼロ、維新も老朽原発はフェードアウト、国民は次世代炉などへの建て替え―と長期的な姿勢は違いがある。

 一方、立憲民主党は新増設を認めず、原発に依存しない社会を目指す。共産党やれいわ新選組は即時原発ゼロを掲げる。

 ただ選挙戦では大きな争点になっていない。共同通信社の参院選トレンド調査で「何を最も重視して投票」するのかを問うたところ、「原発・エネルギー政策」はわずか6・0%と有権者の関心は低かった。

 エネルギー問題は経済や産業だけでなく国民の暮らしにも直結する。将来に関わる重要課題である。

 原発を廃止すればどういう影響が出るのか。再稼働を認めるなら事故のリスクにどう向き合うか。避難対策や核のごみ処理など懸案は山積みだ。

 十分な説明と国民的議論が欠かせない。各党の公約や主張に目を向けたい。