「里山」という言葉が広く知られるようになって30年近い。農山村の暮らしを支える生態系を里山と呼び、保全を訴えたのは、森林生態学の草分けで京都府立大学長などを務めた故四手井綱英さんだ▼林業を生態学の視点でとらえ、森林の生態と人の営みが交わる里山の重要性を早くから指摘していた。その里山で異変が起きているという▼全国の里山で直近の10年間に昆虫が激減したとする環境省などの調査結果が発表された。とりわけチョウ類は調査した種の約4割が絶滅危惧レベルの減少というから驚く▼長岡京市の西山一帯など全国約200地点を市民参加で定点観測し続けた結果、昆虫だけでなく、ヒヨドリやノウサギといった身近な生物の減少も確認。一方でアライグマなど外来種やニホンジカ、イノシシが増えているという▼なぜなのか。里山の自然は人間が適度に手を入れることによって保たれてきた。だが過疎化や高齢化で田畑やため池の管理が放棄され、昆虫などがすみかを失った。農薬や地球温暖化の影響も少なくないとみられる▼日本の原風景ともいえる里山で観察された現象は、生物多様性喪失の警鐘と受け止めねばなるまい。対策は容易ではないが、猶予はない。生命のにぎわいを次代へつなぐのは、今を生きる私たちの責務である。